キャサリン・ハンター キャサリン・ハンター

野田秀樹の作・演出の舞台『THE BEE』(English Version)では、妻子を人質に取られたサラリーマン井戸を演じ、その高い演技力で日本の演劇ファンを魅了した英国の女優キャサリン・ハンター。彼女のひとり舞台『カフカの猿』が5月に東京・シアタートラムで上演される。2009年にロンドン・ヤングヴィック劇場での初演以来、世界中で大人気の話題作が東京で初演されるに際し、ハンターが現在の心境を語った。

『カフカの猿』チケット情報

本作は、フランツ・カフカの『ある学会報告』(1917年執筆・発表)をモチーフに、『THE BEE』の共同脚本家でも知られるコリン・ティーバンが脚色を担当。物語はチンパンジーから人間になった“赤いピーター”が、学会で猿から人間になる旅路について話をするところから始まる。人間に撃たれた猿が、檻に入れられ閉じ込められ恐怖を味わい、檻から出ようとする。猿は檻の外にいる人間を観察し、やがて唾を吐いたり、タバコを吸ったり、酒を飲んだりと人間の真似をはじめた。さらに人間の言葉まで話し出した。すると人々は猿を調教しようと考え、猿は有能なパフォーマーになろうと決心する。

ハンターはカフカの小説を10代の時に初めて読んで「すごく面白かった」そうで、「演出家は、女優に猿の役を頼むのは失礼にあたるんじゃないかという気持ちがあったようですが、私は内心とても喜びました。それはチャレンジングな体験なのですから」と楽しそうに話す。ロンドンで上演した時の観客の反応は「外からの視点(移民)でこの劇を解釈した」とロンドンが移民の街であるがゆえの反応だったと分析。新しい国にやってきて言語や習慣を学び、家族や属してきた社会を残して新しい世界に入っていく様が、“ピーター”と同じであると。(移民の国ではない)日本で上演された場合は「進歩、進化の話として受け取られるかもしれないと思う」と語る。「人間になることを学ぶプロセスが語られてはいるが、同時に人間がいかに暴力的であるかを暗示する物語でもあります。人間は権力に固執し、破壊的な存在でもある。“ピーター”は学会の報告会でひとつ興味深い質問をします。『進化に伴う代償は何なのか?』」。ハンターはこの質問はとても重要であると語る。グローバルな社会でコミュニケーションの方法が多様化した現代において、それに伴う代償は何なのかと問う。だからこそ「生きた経験を提供する劇場という場が大切」なのだと話す。

テキストはカフカの小説をそのまま使うそうだが、一部ティーバンが足した箇所があるという。“ピーター”がジャーナリストに対して語る言葉だ。「基本的にボクは孤独なんだ。私の匂いをかいでごらん、猿の匂いも、人間の匂いもしない。一体自分は何者なんだ」。

ハンターいわく“これは記憶の物語”なのだと。

公演は5月2日(水)から6日(日)まで東京・シアタートラムにて開催。チケットは発売中。