ダン・ギルロイ監督とジェイク・ギレンホール (C)2013 BOLD FILMS PRODUCTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

交通事故や殺人事件などの現場にいち早く駆けつけ、TVニュース向けの映像を撮影する“報道パパラッチ”。この職業にスポットを当て、ショッキングなストーリー展開とジェイク・ギレンホールの怪演が全米で大反響を呼んだ『ナイトクローラー』のダン・ギルロイ監督が、8月22日(土)の日本公開を前に自作を語った。

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主人公ルー・ブルーム(ギレンホール)は、大都会ロサンゼルスの片隅でひっそりと生きる孤独で貧しい青年だ。ふとした偶然から報道パパラッチ(通称:ナイトクローラー)の存在を知った彼が、その世界での成功を目指して夜の街を徘徊していく姿を映し出す。

冒頭、観客の目に飛び込んでくるのは、神秘的なまでに美しいロサンゼルスの夜景の数々。“衝撃動画”を題材にしながらも、手持ちカメラや最近流行のP.O.V.(一人称視点)の手法を採用せず、ダン・ギルロイ監督と撮影監督のロバート・エルスウィットが創出した映像にはクールな美学が息づいている。「まず、よくあるヘリコプターからの空撮はやらないと決めたんだ」。そう切り出した監督の狙いは以下の通りである。「主人公のルーを描くにあたって僕がイメージしたのはコヨーテだった。ルーを大都会で獲物を狩る野生動物に見立てて、彼の行動をネイチャー・ドキュメンタリーのように撮りたかったんだ。だからこそワイドレンズを多用し、きれいなネオンがきらめく場所や美しい山々を背景にした場所で撮影を行っている。それと映画全体を通して“善悪を区別しない”ことを心がけた。野生の世界では、それが当然だから」。

スクープ映像をモノにするため、危ういモラルの一線を踏み越えていくルーは、観る者を戦慄させる不気味なキャラクターだが、冷酷非情な悪人にはしたくなかったという。「ルーは暴力性を内に秘めた危険な男だが、観客が共感を抱ける余地を残したかった。仕事を通して自分を高め、他者に認められたいと願っているルーは、ごく普通の若者でもある。なるべく彼を人間らしく見せるために、いかにもスリラー風のダークな撮り方や音楽の使い方は避けるようにした。単なるサイコパス映画だと観客に思われたら、僕が伝えたかったテーマが損なわれてしまうから」。

その監督が大切にしたテーマは、物議を醸すであろう“驚愕の結末”に集約されている。「結末には、僕自身が世界の現状を見て感じたことが反映されている。ルーは金のためなら何でもやる男だが、現代ではそのようなやり方がしばしば成功に結びついたりする。ルーは決して特別な“怪物”ではない。もし僕らがルーと同じように経済的に厳しい状況に陥ったら、生きるために悪事に手を染めてしまうかもしれないんだ。結末にはそんな警鐘をこめたつもりだよ」。

『ナイトクローラー』
8月22日(土)ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー

文:高橋諭治