準備よりも大事なこと
1年生になった時の苦労を考えて、準備は早めの方がいいと思ってしまいがちですが、まったく逆にこんな意見もあります。
「就学前から、小学校に入った時に苦労させないために、親が先手をとって準備する必要はないと思います。保育園、幼稚園の間は、好きなだけ自由にやって、個性を伸ばして、毎日が楽しい!と思えることをすればいいんです。
ルールがあることを知るのは、小学校に入学してからでも遅くありません」
こう話すのは、『小児科のぼくが伝えたい 最高の子育て』の著者である高橋孝雄先生です。
「小学校に入って特に最初の1,2年間というのは、算数や国語よりも、集団生活を学ぶことがメインなのですね。ルールがある、時間割がある、一定時間座っていないといけないなど、そういったことに戸惑い、次第に慣れていくのが小1の時期。当然、最初からうまくできるはずがない。
だからこそ、楽にスタートを切らせてあげたいと先走るのは、親として当然ですね。一斉に始まるものには準備が必要と考えるのはやさしい親心です。
でも、ぼく私は多少の苦労はさせた方がいいと思うのですよ」
高橋先生の二番目のお子さんは、アメリカで生まれ、4歳の時に日本に帰国しました。小学校に上がるまでは自分の名前すらひらがなで書けないくらいでした。同い年の子たちはお手紙ごっこをしたりしていたのに。
「小学校に入学して初めて国語の授業というものがあることを知り、やるか・・・と思ったのでしょうね。それからは、あっという間にお手紙が書けるようになりました。機が熟していた、ということでしょうね」
自分で気付くことで、子どものやる気に火がついたのですね。ですが、もしうまくいかなかったら、どうしたらいいのでしょうか。
「仮に失敗したとしても、それも悪いことではありません。失敗させる勇気、失敗を教訓にさせる技術というものがあります。
“それでいいんだよ、ママはそういうの好きだよ”“パパは子どものころ、もっとできなかったらしいよ”って言ってあげるチャンスです。
そこでまたがんばれば、こんどこそ!は叶うこともし、やればできるんだという自信につながります」
子どもを信じて手を出さないことが、結果的に子どもの力になるのでしょう。
ちなみに高橋先生の二番目のお子さんは、ひらがな以外にも、”顔を水につけられない“というどうしても克服できない弱点がありました。しかしプールで25m泳げないと得意の体育で◎がもらえないと知って、なんと”犬かき“で25mを泳ぎ切ったという逸話があります。
検定を前に、泳法は問わないというところに目をつけて、犬かきを考えついたのですね。友だちは拍手喝采、先生は”まあ、しょうがないか“と笑っていたそうです。
親がスイミングに通わせて泳げるようになるよりも、自分の力で課題をクリアした喜びを、お子さんは得たのではないでしょうか。
新しい環境になじむまで子どもをしっかりサポートしていこう
『本当は怖い小学一年生』(ポプラ新書)の著者、汐見稔幸さんは、小1プロブレムは、子どもの側からの既成の教育に対する異議申し立てではないか、という見方をしています。
この本が出版されたのは、2013年ですが、これはあながちうがった見解ではないかもしれません。
文部科学省の調査では、病気と経済的な理由を除いて年間30日以上学校を欠席した不登校の小・中学生は、2017年度時点で14万4031人に上り、5年連続増加傾向だといいます。
2020年の教育改革を前に、教育も変わりつつあります。フリースクールなど、学校に代わる学びの場はまだ少なく、認知度も低かったのですが、2016年に「教育機会確保法」が策定され、学外教育支援の必要性が社会的に認められる動きがありました。
まだまだ一般的な社会では、「学校は行くもの」という意識が主流かもしれませんが、どうしても学校に適応できない子どもが、別の場で学ぶ機会を得ることは、選択肢のひとつとしてあってもいいと認める流れになってきたということですね。
とはいえ、和を重んじ、人と違うことを避ける日本人の国民性から考えると、すぐに今の学校環境が変わり、集団より個人をベースに置いた教育に変わるとも思えません。
小学校入学を控えた子どもを持つ親としては、小1プロブレムをどう回避するかよりも、新しい環境になじむまで子どもをしっかりサポートしていこうという心構えを、どーんと持っていたいものです。
卒園に向けて、”今”というかけがえのない時間を、大事に積み重ねていけるといいですね。