BCNランキングのデジタルビデオカメラ部門で、ソニーを抜いてシェア1位になったパナソニック

BCNランキングの2015年上半期(1~6月)は、デジタルビデオカメラ部門でパナソニックが“王者”ソニーの牙城を切り崩してトップの座を射止めた。両社のシェアは、1位のパナソニックが36.5%、2位のソニーが33.3%で僅差の勝負だった。

●W570M-TとV360M-Wが4~6月のトップモデルに

BCNランキングは、全国の家電量販店やカメラ量販店、PC専門店、ネットショップなどの実売データベース。パナソニックは2015年1月下旬にビデオカメラの新商品「WX970M」「W870M」「W570M」「V360M」の4機種を発売。1月~3月に昨年モデルと入れ替わるようにして、4月の入学シーズンや5月のゴールデンウィークに、はやくも新製品が頭角を現した。

パナソニックでデジタルビデオカメラを担当するアプライアンス社コミュニケーショングループ広報チームの柴田康子主務は、「ターゲットであるファミリー層を見直した。昨年から新しく提案している“ワイプ撮り”も浸透した」と、ターゲット分析と新しい楽しみ方の提案が上半期でトップになった要因と分析する。

BCNランキングで機種別の月次データを見ると、W570M-Tが4月に4.2%、6月に6.3%で単独トップ。V360M-Wが5月に6.8%で単独トップになった。上半期のトップ10モデルで見ると1位~4位がパナソニック、5位~9位がソニー、10位がパナソニックの機種で占めた。1位と2位の機種はパナソニックの昨年モデルなので、3位と4位にランクインしたW570M-TとV360M-Wの4月以降の追い上げが大きかったことが分かる。

柴田主務が言うように、同社では、ビデオカメラのメインターゲットであるファミリー層を機種ごとに細かく見直した。最上位機種で4K高画質モデルのWX970Mは、これから生まれる、もしくは生まれたばかりの赤ちゃんを撮るニューファミリー層が対象。6~7年と意外に長いビデオカメラの買い替えサイクルと、2020年に4K放送が標準フォーマットになるロードマップを見据えて「初めての赤ちゃんを撮るなら、10年後も高画質で残しておける4Kビデオカメラで」というのが販売トークである。

●「ズーム機能」と「ワイプ撮り」のお得感がヒットに

赤ちゃんは室内で撮るケースが多く、活発に動きまわらない。表情は豊かで日々、微妙に表情が変わる。そうした利用シーンを想定してレンズが大きくて光を多く取り入れられる高画質モデルを訴求した。ちなみに、WX970Mの使用時の質量は約447gで、競合製品より軽いのは店頭で実際に手に取ってみれば明らかにわかるほど。少し前のセミプロタイプに比べれば、4Kビデオカメラの軽量・コンパクト化は格段に進んでいるようだ。

一方の売れ筋のW570Mは、活発に動き回る幼稚園児や小学生の子どもがいるファミリー層が対象。屋外での撮影シーンが増えるので、使用時の質量は約311gの軽さがユーザーに響いた。入学式や運動会、学芸会などは、指定の場所から撮影することが多いので、ズーム機能も重要なポイントだ。遠くの被写体を鮮明に写す超解像技術を使った最大90倍のiAズームがユーザーの心をとらえた。

主婦などの女性向けにおしゃれが楽しめるようにと、ピンクやホワイト、ブラウンなどのカラーバリエーションを豊富にそろえ、後述する新提案の「ワイプ撮り」まで搭載した「お買い得モデル」がW570Mのヒットした要因だ。

使用時質量が約256gの超軽量、コンパクトタイプのV360Mは、ワイプ撮りを搭載していない。だが、光学50倍とiAズーム90倍はしっかり搭載している。このモデルは、定年後に趣味の旅行などを楽しむ年配層もターゲットにしている。「年配の方の中には、これからデジタルビデオカメラを試してみたいという方も多い」(柴田主務)と、ユーザーの年齢別、利用シーン別にターゲットを分析したことがV360Mのヒットにもつながっている。

●開発者も唸る秀逸な「ワイプ撮り」も

では、上半期No.1の原動力になった「ワイプ撮り」とは何か。液晶モニターの脇にある可動式の小型レンズで撮影した映像を、本体のレンズで撮影した映像と一緒にコーナーに表示させるのが「ワイプ撮り」だ。昨年、上位モデルのW850Mから搭載して新しい撮り方という価値を生み出した。たとえば、子どもの顔のアップばかりが映り、イベントの全体像が分からないという不満を、ワイプ撮りなら両方を一緒におさめられるため解消できる。また撮影者をワイプ撮りすれば、いつもは声だけしか入っていなかったお父さんも、子どもと一緒に映ることができるわけだ。

もっとも、これらはメーカーサイドでもあらかじめ想定していた使い方。ユーザーの使い方には、開発者も唸る秀逸な方法もあったという。「小さなお子さまが2人いるご家庭で、お兄ちゃんにビデオカメラを持たせて妹さんを撮るのです。子ども同士ならではの独特の面白い会話や表情がそのまま自然に撮れて、しかも同じ映像におさめられるのは、まさにワイプ撮りだからこそ残せる貴重な映像です」と、撮影シーンを浮かべながら柴田主務は微笑む。

ユーザーが編み出した新しい撮影方法や感動は、最近ではYouTubeやFacebookなどソーシャルメディアを通じ、ユーザー同士で簡単に共有できるようになった。「ワイプ撮り」搭載のラインアップを3機種まで広げたことで、アーリーアダプター以外の多くのユーザーにも「ワイプ撮り」の楽しさが浸透したと同社では見ている。パナソニックがビデオカメラの上半期で首位を獲得した背景には、「ワイプ撮り」がいまどきのマーケティング戦略とマッチしていた側面もあったといえるだろう。

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