『ピエロがお前を嘲笑う』

ドイツで大ヒットを記録した映画『ピエロがお前を嘲笑う』では、タイトルの通り、“ピエロ”のマスクをしたハッカー集団が登場する。なぜ、劇中で主人公のベンヤミンは、ピエロのマスクをかぶっているのだろうか?

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本作は、様々なハッキング事件を起こし、殺人容疑のかけられた天才ハッカーのベンヤミンが警察に出頭してくるところから始まる。彼は自身の人生について語り、ハッカー集団を結成して政界や金融業界などをターゲットにハッキングをしてきたと告白する。しかし、彼の話に疑問を抱いた捜査官は調査を開始。映画には観客が見破ることができないトリックが幾重にも仕掛けられているという。

ピエロは、インパクトのあるメイクとおどけた表情、コミカルな動きで人を楽しませるが、あまりにも強烈な印象を残すため、ピエロに恐怖を感じる人もいる。実際に“ピエロ恐怖症”という言葉まであり、俳優のジョニー・デップやダニエル・ラドクリフもピエロ恐怖症だ。中にはピエロの置物を見るだけで気絶したという報告もあり、いくつかの映画ではピエロが“恐怖”の象徴して登場している。

しかし、本作ではピエロは恐怖の象徴ではない。そもそもピエロは、人々から愛されるために愉快な顔をしたり、楽しく振舞っているが、同時にメイクに涙が描きこまれるケースが多いことからもわかる通り、孤独で哀しみを抱えていることが多い。本作の主人公ベンヤミンも、様々な事件を起こして世の中を賑わすが、そもそもは学校でも孤立し、誰からも理解されずに孤独に暮す青年だった。ピエロの表情とその奥にある心情は、ベンヤミンと重なる部分がある。

また、多くの文学作品や戯曲で“ピエロ=道化”は、あらゆる制度や常識を無視して本当のことを言う、本当のことを知っているキャラクターとして登場する。例えば、ウィリアム・シェイクスピアの『リア王』に登場するリア王のそばにはいつも道化がいて、王に向かって皮肉をいい、時には鋭いフレーズで王の心をかき乱す。あらゆる常識や、思い込みや、制度や、恐れから無縁で、おどけた顔で相手を翻弄する存在、それがピエロだ。

孤独な存在、相手を翻弄する存在、フザけているが真実を知っている存在……ピエロが持つ様々なイメージが劇中にはいくつも登場しており、物語を深く楽しむ大きなカギになっている。

『ピエロがお前を嘲笑う』
9月12日(土) 新宿武蔵野館ほか全国ロードショー

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