エリアフ・インバル (c)Rikimaru Hotta

御年83歳の老巨匠として、今も世界中のオーケストラと共に名演を聴かせている指揮者エリアフ・インバル。3月17日サントリーホールでの公演を皮切りに東京都交響楽団(以下・都響)との共演がはじまった。

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都響との関係は深く、今から28年前にさかのぼる。1991年、都響と初めて共演したエリアフ・インバルは当時55歳。首席指揮者を務めていたフランクフルト放送交響楽団と共に録音したブルックナーやマーラーの交響曲全集で、日本のみならず世界各地で名を馳せていた頃だ。都響でもすぐさま絶賛を博したからであろう。その後も1999年までコンスタントに共演が続いていく。

しばし間があいて、2006年に再共演。これは筆者にとっても鮮烈なインバル体験となったため忘れ難い。日本のオーケストラがこれほどまでに朗々と鳴り響き、しなやかに呼吸するのを初めて体験したからだ。その翌々年にはプリンシパル・コンダクターに就任。記念公演でのマーラーの《千人の交響曲》も、あまりに壮大な凄演だったことがいまだに印象深い。以後は途切れることなく都響を指揮し、毎年壮絶な演奏を繰り広げている。

また、インバルの指揮というのは演奏者側にとっても特別な体験だということを記しておきたい。筆者はインバル指揮によるマーラーの《復活》に合唱団のメンバーとして共演したことがあるのだが、そのあまりに圧倒的な統率力には唖然とさせられるばかりであった。自らの求める音楽世界へと聴衆・演奏者を問わず、ホールのなかにいる誰も彼もを惹きつけてやまないのだ。

1980年代に録音されたブルックナー、マーラーの交響曲全集で名を馳せたインバルだが、1990年代に入ると今度はウィーン交響楽団と組んでショスタコーヴィチの全集を完成させている。なかでも3月23日(土)・福岡、3月24日(日)・名古屋、3月26日(火)・東京文化会館で演奏される第5番については、既に3度も録音しているインバル自身にとっても思い入れのある作品。都響とも2011年の演奏会の模様がライヴ録音されており、こちらも名盤としてリスナーから高い評価を勝ち得ている。

インバルも80代に入り、近年ますます円熟の境地に磨きがかかるだけに、ひとつひとつの公演がより貴重な機会としてますます聴き逃がせない。

文:音楽ライター 小室敬幸