三菱電機の静岡製作所で冷蔵庫の営業を担当する営業部 冷蔵庫営業課の河原 永氏

ペットボトルに差した温度計は-5℃を示しているのに、中は氷ではなく液体の水のまま……。氷点下だと水は氷になることは誰もが知る常識だが、その常識を覆す「過冷却現象」だ。これを応用したのが、8月26日から順次発売されている三菱電機の「置けるスマート大容量」WX・JXシリーズに搭載されている「氷点下ストッカーD」。約-3℃~0℃の温度帯を微妙に制御しながら肉や魚などの生鮮品を美味しく保ち、「解凍」することもできる新しい機能に迫った。

●消費者のライフスタイルが変化して開発に着手

冷凍した肉や魚を早く解凍したいときに電子レンジを使って失敗した経験は、誰にでも少なからずあるだろう。表面は解凍できているものの中身は凍ったままだったとか、食べるのを楽しみに冷凍保存していた肉から、うまみがつまっているドリップが流れてしまってまずかったなど。「氷点下ストッカーD」は、そんな不満を解消してくれる。

「女性の社会進出による共働き世帯が増えて、週末のまとめ買いが増えている。一方で冷凍から解凍した食材の味への不満もある。いかに美味しいまま、長く保存できるかというニーズが高まっている」。三菱電機の営業部 冷蔵庫営業課の河原永氏は、新機能を開発した背景に消費者のライフスタイルの変化があったと説明する。

「氷点下ストッカーD」は、すでに従来機種から搭載している「切れちゃう瞬冷凍」でも使われている「過冷却現象」を応用した技術で、昨年モデルで「氷点下ストッカー」としてデビューした。過冷却現象とは、0℃から時間をかけてゆっくり冷やしていくと凍結点を超えても凍りはじめず、水のままの状態になる現象のこと。

氷点下でも凍っていないから、そのまま取り出してすぐに調理に取り掛かれる。忙しい女性にとって、解凍の失敗でイライラしないで済むし、解凍するまで待たなくてもいい「時短」機能でもあるわけだ。

●氷点下で「解凍」すれば長持ち

 「切れちゃう瞬冷凍」は約-7℃で過冷却状態の肉などを約2~3週間の保存ができ、「氷点下ストッカーD」は約-3~0℃で過冷却状態の肉や魚を約3~7日間保存できる。約-3℃で保存する「氷点下ストッカーD」の場合、氷点下でも生のままだから、鮮度や美味しさ、風味も損なわれずに長持ちする。また、氷点下のまま「解凍」する、という新しい使い方もできるようになった。

「解凍」という言葉を聞くと熱を加えるイメージを持つかもしれないが、先述したように「氷点下ストッカーD」はあくまでも約-3℃の氷点下のままで「解凍」ができる。たとえば、朝出掛けるときに、夜は麻婆豆腐にしようと思えば、冷凍室に入っているひき肉を「氷点下ストッカーD」に入れてから出掛ける。帰ってきたときには、カチカチではなくすぐに調理に取りかかれるように解凍されているのだ。

少ししか使わないのに電子レンジで一度解凍してしまったら再冷凍できないので使いきらなければならずに困ったという場合でも、「氷点下ストッカーD」があれば氷点下なので残りをそのまま約3~7日間保存することができる。三菱による実験では、解凍した後に3日間、冷蔵室、チルド室、氷点下ストッカーDに保存した肉を比較した場合、氷点下で解凍する「氷点下ストッカーD」からはドリップの流出がほとんどなかったという。

氷点下なのに凍らない技術で、三菱の冷蔵庫は食材の美味しさを長持ちさせることができる。冷蔵庫は単に食材を保存するための「保管庫」ではなく、「調理家電」としての側面も持ちはじめているといえるだろう。(BCNランキング 細田立圭志)