船橋裕一郎 撮影:イシイノブミ

太鼓芸能集団「鼓童」の浅草特別公演『粋』が6月に東京・台東区立浅草公会堂で初演される。演出を手掛ける鼓童の代表・船橋裕一郎に話を聞いた。

船橋が「浅草の皆さんともお話ししながらこれからつくりあげていきます。自分たちもドキドキするような公演にしていきたいです」と話す本作。今回は、『粋』というタイトルのもと、さまざまな試みに挑戦するのだという。

2013年から毎年行っている浅草公会堂での公演も7回目となるが、なぜ今回こういった作品をつくろうとしたのかを尋ねると「僕たちは旅公演が多いので、ひとつの場所に長くとどまることが少なく、その土地の方と密接に繋がるという機会もあまりありませんでした。だからこうやって毎年同じ場所(浅草公会堂)で公演ができることがとても嬉しいし、浅草の皆さんは公演を重ねるごとにウエルカムな雰囲気で迎えてくださって。公演時期はびっくりするくらい街を鼓童一色にしてくれるんです。そんな浅草という土地に僕たちも恩返ししたいですし、そろそろここで1度“浅草に挑む”じゃないですけど、覚悟を決めて取り組みたいと思いました」と、今回の試みは長い時間をかけた交流の積み重ねから生まれたものなのだと語る。

浅草との交流は船橋自身の変化も生んだそうで「改めて(鼓童の拠点である)佐渡という背景がしっかり見えるグループになりたいと思いました。お客様が僕らの公演を観て“この演奏が生まれた土地に行ってみたいな”と思ってくだされば、よりいいなって。今までこういうことを考えることはあっても声に出したことはなかったのですが、浅草という土地や人に触れ、改めて自分たちのことを振り返ることができたのだと思います」

タイトル『粋』は浅草の人々をイメージしたもの。「僕たちの表現ってどちらかというと“野暮”に近いと思うんです。だけど、目の前のことにまっすぐ向かうことが“粋”に繋がっていくといいなと思うし、それが僕たちにできる“粋”かなとも思います。それを浅草の方に観ていただいて、そこからまた何か生まれて、次につながればいいなと思っています」

船橋が「4日間5公演という短い期間ですし、公演ごとに変化があってもいいんじゃないかな」と語る、ここだけのものになりそうな公演は6月27日(木)から30日(日)まで東京・台東区立浅草公会堂にて。

取材・文:中川 實穗