以前と少し変わったことといえば、女将が甘辛ビューティになったことと、
曰く「移転のお祝いにお酒を値下げしたこと」(涙)。
近頃の女将はひとりあたま、3秒ほど笑顔を見せてくれるようになった。
有り難さに思わず涙が出そうになるという者もいれば、
もっと冷たくされたいという酔っ払いもいる。

そんなある日のこと。
例によって一人酒をしていると、おっちゃん(すでに顔見知り)が話しかけてきた。
白髪にジャンパーとキャップがトレードマークだが、このおっちゃんは、とにかくむちゃくちゃ飲む。食べる。


ゆんらゆんら体を前後させながらもホッピーの中を頼み続ける。この日の第一声は、「アンタ、カッコいいね」だった。
相当酒が回ってるようだ。


女一人酒がカッコいいのか、たまたまかぶっていた使い古しのハンチング帽が
カッコいいのか、飲むペースが早いのがカッコいいのか、まあどうでもいい。


おっちゃんは、自分は富山の生まれだからして魚にはうるさいのだと言う。
しかしここのイカはオレの眼鏡にかなったイカなのだと言う。


一等最初に売り切れるいかみみ刺身を私が頼むと、「わかってるな」と誉めつつも、
「しかしイカにだって都合があるんだ」と斬新なことを言う。
毎日どこの部位が「おすすめ」かを焼き場の”ちゅうさん”に必ず聞いて頼むのだそうだ。
私のイカ愛はそんなもんじゃない。


すべてのイカは素晴らしい、というとこから始まっている。
(もっとも他の店でつい「やきや」と比べ、もっと頑張れ…!と念じることはある)
「今日のなんこつは最高よ」とおっちゃんが言う。
言われなくても頼むつもりの好物だ。


つぼの中のタレにさっとくぐらせ、焼き場で一本ずつ焼かれる。
ぷりっとした肉にきゅるっとしたナンコツの歯ごたえがたまらない。