今期の日曜9時は、TBSが伝統の日曜劇場枠で山崎豊子原作の『運命の人』を、フジが新興のドラマチック・サンデー枠で松下奈緒主演の『早海さんと呼ばれる日』を放送していた。放送前は、やはり重厚で骨太の作品になるであろう『運命の人』の圧勝かと思われたが、実際はそうでもなかった。というわけで、まずは視聴率の結果から見てみよう。 

『運命の人』の平均視聴率(ビデオリサーチ調べ・関東地区)は、加重平均で12.04%(単純平均で11.78%)。最終回こそ14%を超えたが、中盤はあまり数字が伸びず、6話では1ケタも記録した。一方、『早海さんと呼ばれる日』の平均視聴率は、加重平均で10.53%(単純平均で10.54)。初回は9.8%だったので、かなり頑張って『運命の人』に善戦したと言っていいんじゃないだろうか。 

『運命の人』は、確かに見応えのあるドラマだった。本木雅弘は、『坂の上の雲』の秋山真之とは違う弓成亮太という役を真正面から力強く演じていたし、三木昭子を演じた真木よう子も妖艶だった。序盤に昭子が「未来を変えてください」と弓成に言うシーンは、物語がグッと動く感じがして、とくに印象的だった。 

弓成由里子を演じた松たか子も、由里子が持つ内面の強さを静かに演じていたと思う。3人の中では一番運命に翻弄された登場人物だったけど、70年代を生きた女性の強さが感じられた。時代を超越した役を自然に演じられるところは、松たか子の真骨頂だと思う。 

そんな見応えがあるドラマが、なぜ中盤は視聴者からあまり支持されなかったのか。その理由は、連ドラ化する上での構成にあったような気がする。   

最後になって描かれたように、弓成は沖縄の真実を何も知らないまま国家と戦っていた。だから、軍用地復元補償費の密約問題を追求することが、沖縄を救うことにつながるという大義名分をかざしても、どこかズレてる感じがずっとしていた。それだけに最終回はスッキリしたわけだけど、もう少し沖縄のシーンも並行して描く方法はなかったのかなあ、という印象は強く残る。もともとこの原作には、ひとりでも多くの人に沖縄が抱えている歴史や現状を知ってもらいたいという思いも込められていたわけだし……。

もちろん、密約究明と男女関係は別次元の問題と言い切ってしまうくらい、弓成が人間臭いキャラクターだったのは分かる。だから、沖縄の真実を知らないまま、いきがってスクープを狙っている不遜な新聞記者であるのはかまわない。ただ、その主人公が、国家を相手に戦うという、一見ヒーローのような存在であったから、ちょっとややこしかった。やっぱり主人公を応援できないというのは、連ドラを見続ける上でかなりしんどいことなので。 

最終回で描いたように、沖縄の問題をひとつのテーマに掲げるなら、弓成がその点においても未熟であることを、もっとわかりやすく構成すべきだったんじゃないだろうか。まあ、あくまでも連ドラとして映像化するならの話だけど。

あと、政府側が問題をすり替えようとした弓成と昭子の“密かに情を通じ”た関係ね。運命に翻弄された3人が……、と言われても、いやいやそこは運命じゃないでしょ、というツッコミはやはりしたくなった。ストーリーとしては面白いのに、なぜか物語の中にのめり込めず、冷めて見てしまった要素は、作品全体のキモになっていた運命とは少し違う男女関係にもあった気がする。

『運命の人 DVD-BOX』
TBS   18,434円
※7月11日(水)発売予定

そんなこんなで『運命の人』が、日本中を揺るがせた不倫スキャンダルを描いている頃、裏では『早海さんと呼ばれる日』が王道のホームドラマを展開していた。言ってみれば、こちらの方が日曜劇場っぽい内容で、気楽に見られた作品だった。結果、『運命の人』が1ケタを記録した第6話では、『早海さんと呼ばれる日』の方が高い視聴率を出すという現象も起きた。

 



このドラマは、家族のキャラクターと配役がすごく合っていたと思う。男4人兄弟のキャラクター分けは意外に難しいと思うけど、配役が合っていたので、そんなにワザとらしい感じがしなかった。とくに、優しくて真面目で、ちょっと気弱なところもある長男・恭一を演じた井ノ原快彦は、抜群にハマっていた。長男の嫁でヒロインの優梨子を演じた松下奈緒も頑張ったと思うけど、相手役が井ノ原快彦じゃなかったら、このドラマの印象はずいぶん変わったんじゃないだろうか。それくらい井ノ原快彦の貢献度は高かったと思う。 

個人的には、船越英一郎が演じる父親・恵太郎はB級テイストが強すぎて苦手だったし、家族ゲンカの乱闘もムリヤリ感があってシラケることもしばしばだった。でも、家族全体のバランスが良かったので、そんなことも最後には気にならなくなっていた。 

ストーリーとしては、母親(古手川祐子)が失踪してしまい、そこにヒロインである長男の嫁(松下奈緒)が来るというところから始まったわけだけど、その母親と家族の関係もきちんと描いていたところが良かった。これが単に嫁の奮闘記だけだったら、中盤以降は飽きられていたと思う。母親の居場所が分かるタイミングが、連ドラとしては絶妙だった。 

『早海さんと呼ばれる日~ DVD-BOX』
フジテレビ 15,362円
※8月15日(水)発売予定

今期の日曜9時対決は、TBSもフジも、どちらも視聴率が取れたとは言えない結果だった。でも、2つの作品を比べながら見るとそれなりに面白かった。とくにテレビの特性や、連ドラというフォーマットを考えながら見ると……。いずれにしても、TBSが社会派の内容で来た時は、フジはベタなホームドラマで攻めた方が勝算はありそう。日曜の夜は、なんだかんだ言っても家族で楽しく見られる内容の方がいいしね。とにかく、放送前の予想とはかなり違う日曜9時対決だった。 

 

 

たなか・まこと  フリーライター。ドラマ好き。某情報誌で、約10年間ドラマのコラムを連載していた。ドラマに関しては、『あぶない刑事20年SCRAPBOOK(日本テレビ)』『筒井康隆の仕事大研究(洋泉社)』などでも執筆している。一番好きなドラマは、山田太一の『男たちの旅路』。