『Desierto』 Courtesy of TIFF

メキシコをめぐるタイムリーなトピックを取り上げる映画2作が、トロント映画祭で上映され好評を得ている。カナダ人監督ドゥニ・ヴィルヌーヴ(『プリズナーズ』)による『Sicario』は、近年、残酷さを増しているメキシコの麻薬カルテル問題をテーマにするもの。しかし映画は、麻薬売人の側ではなく彼らを捜査するFBI、つまりアメリカ側の暗い部分を掘り下げるものだ。

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主人公の女性FBI捜査官を演じるエミリー・ブラントは、「ISIS(イスラム国)のニュースは、毎日取り上げられている。でも、実際にはメキシコの麻薬カルテルは、ISISとは比較にならないくらい多くの人を殺しているの。この映画に出演するまで、私もその事実をあまり認識していなかったわ」と語っている。

一方、『Desierto』は、国境を越えてアメリカに不法入国してくるメキシコ人移民を描く。監督は『ゼロ・グラビティ』の脚本を父アルフォンソ・キュアロンと共同執筆したホナス・キュアロン。アルフォンソもプロデューサーに名を連ねる。徒歩で国境を越えたメキシコ人(ガエル・ガルシア・ベルナル)と十数人の仲間たちは、勝手に国境パトロールをする人種差別者の白人男性(ジェフリー・ディーン・モーガン)から次々に射殺される。岩とサボテンしかない広大な砂漠を、どちらに行けばいいのかもわからないまま、主人公たちは命を守るべく逃げ続ける。

移民問題はアメリカにとって長年の懸念事項だが、次回の大統領候補に名乗りを挙げるドナルド・トランプ氏の過激な発言が論議を呼び、ヨーロッパにシリアからの移民が押し寄せる今、新たな視点を投げかける作品と言えるだろう。上映時間は約90分で、終始緊張感に満ちており無駄がない。世界プレミアとなった現地時間13日の上映では、「ブラボー」の声があちこちから飛んだ。

取材・文:猿渡由紀