左から、みのすけ、大倉孝二  撮影:源 賀津己 左から、みのすけ、大倉孝二  撮影:源 賀津己

ケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)の主宰する劇団ナイロン100℃が、12月、下北沢本多劇場にて『消失』を再演する。KERAの作・演出で2004年末に初演された『消失』は、“善意がもたらす悲劇”を描いたKERA流シリアス・コメディ。最高傑作との絶賛を受け、かねてより再演を熱望されていた作品だ。11年ぶりの上演、しかも初演キャストの大倉孝二、みのすけ、犬山イヌコ、三宅弘城、松永玲子、八嶋智人(客演)の6人の再集結に、演劇フリークの熱い視線が注がれている。皆が善人に描かれているという登場人物の中で、物語の核となるのは、兄チャズ役の大倉孝二と弟スタンリー役のみのすけのふたり。再演への思いを聞くと、「KERAさんは早くから再演したがっていたけど、僕は個人的につらかったので嫌だった。ついに来たか、という感じ」という大倉の率直な第一声が飛び出した。

ナイロン100℃『消失』チケット情報

「大倉の役は気持ちを抱え込むから大変だよね。僕はこの作品の、過去なんだか近未来なんだかわからないような設定、いわゆるアナログSFの世界観が好きなので、もう一回やれるのは嬉しいです。救いのない話なので、今の日本の状況下でこれをやるのはどうかな…とも思ったけど、不幸な物語として見るかどうかはお客さんに委ねたい」(みのすけ)

クリスマスの夜。チャズとスタンリー兄弟の家に、スタンリーが思いを寄せる女性(犬山)、怪しいヤミ医者(三宅)、間借りを望む女性(松永)、ガスの点検員(八嶋)が次々と現れる。彼らの会話から浮かび上がるのは、兄弟の悲しい秘密と彼らを取り巻く不穏な状況。滑稽なやりとりに笑いを誘われながらも、しのび寄る悲劇の予感が胸を圧迫する。

「初演のパンフレットで、“KERAさんは僕に新しいことをやらせようとしていた。自分でもやらなきゃと思ってやったけど、死ぬほどつらい”と言ってて(笑)。やっぱり基本はふざけた、面白いものが好きなんですよね。シリアスな話なので反応が予測できなかったけど、幕が開いたらすごく好評で意外でした。KERAさんには、自分にはまったく思いつかないことを考える人だな~といった尊敬がありますね」(大倉)

劇団内では先輩(みのすけ)と後輩(大倉)のふたりだが「もはや先輩という意識は全然ない」という大倉に、みのすけも「いいんじゃないですかね」とニヤリ。

「ナイロン100℃の役者は個人主義だから。でもそれを許さないのが体育会系の八嶋さんで(笑)。お前、後輩のくせに!とか言うんですよ。え~誰も気にしてないよ、って思うんだけど」(大倉)

「俺もかなり叱られた記憶がある。年上だからってダメだよ!って(笑)」(みのすけ)

独特で良い加減の緩い空気が漂う“ナイロニズム”をピリッと引き締める八嶋エッセンス。その絶妙のチームワークで構築する噂の舞台の再来を、見逃すわけにはいかない。

「もう一回やって良かった、と思える舞台にしたいです」(大倉)

「初演を観た人も、初めての人も、スゴいと思ってもらえる作品だと思いますよ」(みのすけ)

上野紀子