ミュージカル『CHESS』 ミュージカル『CHESS』

ABBAのベニー・アンダーソンとビョルン・ウルヴァースが作曲を手掛けたミュージカル『CHESS』が9月27日、東京芸術劇場 プレイハウスで開幕した。過去2度にわたりコンサート形式で上演を重ね、日本でもじわじわと人気を獲得してきた作品のミュージカル版が、ついに本邦初登場。コンサート版にも出演していた安蘭けい、石井一孝、中川晃教に加え新たに田代万里生が初参加、歌唱力の高い実力派が揃い、充実の舞台を展開した。

ミュージカル『CHESS』

舞台は米ソ冷戦の時代に行われたチェスの選手権大会。チャンピオンの座を争うのは、アメリカ代表フレディ(中川)とソ連代表アナトリー(石井)。だがその戦いの裏では、国家の威信をかけ、KGB、CIAが暗躍し火花を散らしていた。そのさなか、フレディのセコンドであり恋人でもあるハンガリー出身のフローレンス(安蘭)は、次第にアナトリーと惹かれあい、アナトリーは亡命を決意するが……。

楽曲が何といってもキャッチー。ロックからクラシックまで多彩でまばゆい音楽の洪水が、日本ミュージカル界を代表する歌唱力を持つ俳優たちの歌声に乗り耳に押し寄せる幸福は、多くのファンを掴んだコンサート版と同様だ。メロディが複雑なのに麻薬のように耳に残るのは、さすが稀代のヒットメイカー、ABBAのなせる技。だが1曲ごとに熱狂の拍手が続いたコンサート版とは違い、今回のミュージカル版は、拍手を挟むのが憚られるほどどんどん物語に引き込まれていく。天才ゆえの奔放さと孤独を抱えるフレディ役の中川、国と自身の大切なものの間で苦悩するアナトリー役の石井が好対照の魅力。安蘭扮するフローレンスは、ハンガリー動乱で両親を亡くした過去がしっかりと描かれ、人物に厚みが増した。三角関係を織り成すこの男女のそれぞれの思いが、哀切でやりきれない。そして初参加の田代はチェスの競技を支配する審判・アービター役。ぶれない正しさを持つ厳しさを、うまくロックナンバーに乗せて聴かせる。クラシック出身の田代の今までにない表情も新鮮だ。

初日に先駆け26日には会見も。「チェスやABBAを好きな方にとても期待されている作品。プレッシャーを感じながらお稽古をしていましたが、素晴らしいものが出来たと自負しています」(安蘭)、「戦争下の物語だということがコンサート版よりクローズアップされています。観る方も、一緒に戦争下で時代に抗っているかのような思いを受け取ってもらえたら」(石井)、「ただ単純に甘い、ドラマチックなラブストーリーではない。牽制し合っている国同士の人間が恋に落ち、葛藤が生まれ、アイデンティティを強く認識し、新しい未来を切り拓こうとする原動力が生まれる。言葉の表面だけではない美しさが新たに見えてきました」(中川)、「ミュージカル界にとっても、すごく斬新な位置にある作品。『CHESS』みたいなミュージカルは他に思いつきません」(田代)と、それぞれ思いを語った。

10月12日(月)まで同劇場にて。その後10月19日(月)から25日(日)まで梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティにて上演される。