2016年に公式戦勝利の史上最年少記録を更新した、プロ棋士の藤井聡太七段の登場は、世の中をあっと言わせました。

彼の将棋の腕もさることながら、インタビューに答える彼の落ち着いた物腰や、使う語彙の大人っぽさに驚いた人も多いのではないでしょうか。

藤井七段はまだ16歳ですが、将棋を始めたのは5歳の時だったそうです。人の人格形成に関わる要因は複数あるでしょうが、将棋が今の藤井七段に与えた影響は、少なからずあると思います。

こどもをぐんぐん伸ばす 将棋思考』(高野秀行 著/ワニブックス 刊)の著者、高野秀行さんは、「将棋は人を育てる」と言っています。

高野さんは、日本将棋連盟六段保持者であり、東京・世田谷区で子どもたちを対象にした将棋教室を運営しています。

日々、将棋を通して子どもの成長に接してきた高野さんが提唱する、「将棋思考」を身につけることで子どもにどんな影響があるのかについてご紹介します。

将棋を始めるのに最適なタイミングとは?

最近は少子化のためか、子どもが小さいうちから習い事をさせる親も多いですよね。

ですが、将棋にかぎっては、早ければ早いほどいいとは、高野さんは考えていないそうです。

なぜなら、ある程度人の話を聞けて、自分の考えを表明できる子でなければ、将棋のルールを理解するのは難しいからです。さらにルール以前に、盤の前にじっと座っていることが、まず未就学児にはハードルが高いでしょう。

では、子どもに将棋を習わせるタイミングとして、いつがベストかといえば、小学校1年生の夏休みなのだとか。1学期が終わる頃になれば、一定時間、椅子に座っていることにも慣れ、漢字も習い始めます。

ちなみに将棋で使われる漢字で子どもが初めに習うのは、「金」です。そこから、将棋への興味もわいてくるかもしれませんね。

将棋をすることのメリットは?

子どもが将棋を始めることでどのような影響があるのでしょうか?

子どもが成長していくための要素が、将棋の中にはたくさん隠されているのです。

1: 礼儀が学べる

将棋は、礼に始まり、礼に終わる競技です。たとえキャリアがあろうとなかろうと、年齢や立場、性別に関係なく、対局する者同士は「三度の例」を行わなければなりません。

「お願いします」と互いにお辞儀をして始まり、対局が進んで勝敗がつくと、敗者みずから「負けました」と頭を下げます。

最後に、「ありがとうございました」と再び互いにお辞儀をして終了です。

2: 言い訳をしない子どもになる

先に述べた、「負けました」で終わるところが、他には例のない独特な競技だと高野さんは言います。他の競技だったら存在する審判がいない、「セルフジャッジ」の競技なのです。

なかなか自分の負けを素直に認めるのは難しいものです。子どもにとってみたら、なおのこと。

冒頭の「お願いします」は言えても、「負けました」「ありがとうございました」がなかなか言えないのは、多くの将棋を始めたばかりの子どもに共通してみられるそうです。

将棋は運の要素がまったくありません。先手後手をのぞけば、双方は同じ条件のもとで戦うのですから、負けたということは、純粋に自分が相手よりも弱かったということです。

それを認められるようになった子どもは、言い訳をしなくなることに、高野さんは気づいたそうです。

負けたかどうかは自分で決めるという、大人でもなかなか難しいことが身につくことで、普段の生活からも「だって」が減ったという保護者からの報告もあったといいます。

どんなに強い子でも、ずっと勝ちっぱなしということはないと高野さん。強くなるほど、世の中には自分よりも強い人がいることを知り、勝ったり負けたりを繰り返すことで子どもは謙虚になるのです。

3: 落ち着いた子どもになる

小学校低学年の子どもにとって、一定時間同じ場所に座っていないといけないということは、かなりの集中力を要することですよね。

将棋を始めたばかりの子どももまた、盤の前に長く座っていられません。対局中に落ち着きなく体を動かしたり、うろうろ歩き出してしまったり、膝を立てて座ったり。

高野さんの将棋教室では、そんな子どもたちに根気強く、座るということを指導しています。とにかく座ってもらわなければ将棋にならないからだそうです。

見た目の姿勢は心の姿勢。いい姿勢を手に入れた子どもは、自然と落ち着いてきます。勉強しろと言われてもまったく聞かなかった子が机に向かうようになったり、将棋以外にもいい影響が出ているそうですよ。