新国立劇場オペラ「ラインの黄金」 公演の模様 撮影:寺司 正彦/提供:新国立劇場 新国立劇場オペラ「ラインの黄金」 公演の模様 撮影:寺司 正彦/提供:新国立劇場

10月1日、新国立劇場の2015/16シーズンがワーグナーの楽劇「ニーベルングの指環」全4部作の序夜『ラインの黄金』で開幕した。指揮は日本屈指のワーグナー指揮者である芸術監督の飯守泰次郎。演出家ゲッツ・フリードリヒ(1930~2000)が晩年に制作したプロダクションだ。

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開幕前からの話題のひとつが、世界的なヘルデン(英雄)テノールのステファン・グールドが初役のローゲを歌うこと。軽い声のテノールが歌うことの多い役だが、過去にはヴィントガッセンやイェルザレムといった名ヘルデンテノールたちも歌っている。グールドの表現豊かな二枚目の歌で聴くと、狡猾な策略家のローゲが急に頼もしい智将に見えてくるから不思議。第3~4場の、ヴォータン役のユッカ・ラジライネン、アルベリヒ役のトーマス・ガゼリとの3人による長い丁々発止は迫力満点。指折りのワーグナー歌手たちが、ハイグレードな声の芝居を聴かせてくれた。グールドは今後、ジークムント役、ジークフリート役と併せて今回の「指環」シリーズすべてに出演する。

さて、フリードリヒの「指環」というと、「トンネル・リング」で知られるベルリン・ドイツ・オペラの舞台を思い起こすベテラン・ファンも多いだろう。フリードリヒの代名詞とも言える名プロダクションだが、今回の演出は1996から1999年にフィンランド国立歌劇場で制作された舞台。ラインの流れを示す青いネオン管に始まり、まばゆく光る指環、ラストで燦然と輝くヴァルハル城まで、「光」が主役の演出だ。

際立っていたのが第3場。それまでのシンプルなセットが一転、舞台がせり上がって忽然と現れる地底界ニーベルハイムが、なんだかすごいことに。林立する「DANGER」の電飾。アルベリヒが隠れ頭巾を被ると、身体がすっと透明になっていくイリュージョン! あくまでも安っぽい陳腐な大蛇や蛙も(間違いなくわざと)登場して客席の笑いを誘った。もちろんこの演出に、もっと象徴的な意味を探り当てることもできそうだけれど、まず難しい理屈抜きで楽しめるのは幸せだ。これから3年かけて繰り広げられる長大なドラマ。きっちり見届けるために、ともかくこの《ラインの黄金》を観ないことには話が始まらない。なお、開幕に先立ち、《ヴァルキューレ》と《ジークフリート》の上演予定が発表された。前者は2016年10月、後者は2017年6月。各6公演ずつが予定されている。

新国立劇場オペラ『ラインの黄金』は10月17日(土)まで東京・新国立劇場 オペラパレスで上演中。チケットは発売中。

取材・文:宮本 明