『シンベリン』稽古風景 (撮影:渡部孝弘) 『シンベリン』稽古風景 (撮影:渡部孝弘)

蜷川幸雄演出による〈彩の国シェイクスピア・シリーズ〉の第25弾として、ロマンス劇『シンベリン』が上演される。シェイクスピアの作品群でも異彩を放つ本作は、多面的な登場人物と入り組んだプロット、波乱万丈のストーリーが見どころ。阿部寛、大竹しのぶ、窪塚洋介、勝村政信、浦井健治、瑳川哲朗、吉田鋼太郎、鳳蘭ら、そうそうたる顔ぶれが全力で息を吹き込む本作。4月2日(月)に彩の国さいたま芸術劇場にて開幕する日本公演に続き、5月にはロンドンオリンピックの前夜祭である『ワールド・シェイクスピア・フェスティバル』に招かれている。開幕を目前に控えた稽古場は、熱気であふれていた。

『シンベリン』公演情報

物語はブリテン王シンベリン(吉田)が、ひとり娘イノジェン(大竹)と幼なじみのポステュマス(阿部)の結婚に激怒するところから始まる。ローマに渡ったポステュマスは現地で知り合ったヤーキモー(窪塚)と語り合ううち、妻の貞節について財産を賭けることに。早速ブリテンに渡りイノジェンを誘惑するヤーキモーだったが、イノジェンは当然その誘いをはねのける。その夜、イノジェンの寝室に忍び込み、ポステュマスが贈った腕輪を盗んで帰国したヤーキモー。不義の証しとして彼から腕輪を示されたポステュマスは、全てを失った悲しみにイノジェンへの復讐を誓う。一方、夫のいるローマへ男装して向かうイノジェンの前に、ギデリアス(浦井)とアーヴィレイガス(川口覚)兄弟が現れて……。

稽古場に入ると、まず浴衣やガウン姿で稽古を待つキャストたちが目についた。稽古場いっぱいに広がる楽屋鏡や化粧道具の数々は、実際に舞台で使われる物だそう。その横でスタッフやキャストに声を掛けつつ歩き回る蜷川と、和やかに応える彼らの様子は、まるで大衆演劇の一座のよう。剥き身の関係性が熱を放つそんな空気感は、稽古に入るとますます高くなった。静かにたたずむポステュマスの阿部が次第に激昂してゆく姿や、無垢な王女イノジェンに扮した大竹の、刻々と移り変わる横顔。そして誘惑者ヤーキモーを演じる窪塚の細い体躯からにじみ出る、不思議な存在感。そのどれもが生々しく、湿り気をもった体温として伝わってくるようだ。

さらにシンベリンと先妻の息子クロートン(勝村)とのコミカルなやりとりや、ひそかに奸計をめぐらす王妃(鳳)の場面など、このキャスト陣ならではの自在な表現力に稽古場の全員が引き込まれるひと幕も。まさに最後まで目が離せない、極上のエンタテインメント。そのエネルギーを全身で浴びられるであろう本番を、楽しみに待ちたい。

埼玉・彩の国さいたま芸術劇場 大ホールにて4月2日(月)から21日(土)まで。その後、福岡・北九州芸術劇場 大ホール、大阪・梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ、ロンドンのバービカン・シアターにて上演される。

取材・文:佐藤さくら