こだわり3:描き出すのは4人の生の感情

©2015『私たちのハァハァ』製作委員会

制作に入る前にはKISSファンを描いた大好きな『デトロイト・ロックシティ』(99)を気にしていたが、「あれとは違うものができると確信したから、作ったんです」と強調する。

「『デトロイト・ロックシティ』は全員が同じぐらいKISSが好きで、家庭の事情やコンプレックスによる出来事が事件になるじゃないですか? それは僕らが体験しようと思っても体験できないものだけど、こっちの4人はもっと些細な“好き”の違いがトラブルのもとになる。

クリープハイプのことが“好き”と言っても、彼らがいなきゃ死んじゃうという子もいれば、にわかファンもいるし、“好き”なふりをしていたり、みんなが東京に行くんだったら面白そうだから私も行くみたいな子もいて。

よくは分からないけれど、日本人ってなんかそんなところがあるような気がするんです。でも、その“好き”の違いが、当然いろいろな障害が起きる旅の途中でそれぞれのフラストレーションになるし、“本当は来たくなかったんでしょ!”という怒りを爆発させる。

そういったことは実際にも起き得る僕たちの生活とも地続きなものだし、より人間的でリアルな感情だと思ったんです」

こだわり4:LINEで見せる、女子高生たちの生っぽい会話

それにしても、松居監督は女子高生たちの気持ちがどうしてそんなに分かるのだろう?

「いや、分かってないですよ。男の子の気持ちは分かり過ぎるぐらい分かるけど(笑)。でも、女子の考えていることは分からないし、底知れないから、いくらでも深読みができる。彼女たちに委ねることもできるし、勝手に掘り下げてくれるような気がしていたので、僕、けっこうヤンチャなボールを投げているんです。逆に芝居や気持ちを押しつけたりはしない。

僕には女子高生の気持ちなんて分からないから、“そんな感情じゃないでしょ!”とは絶対に言えないし、芝居を重ねながら、だんだんよくなっていくのを見極めていく感じでしたね」

マイクロバス1台で北九州、広島、岡山、神戸、東京を移動しながら10日間かけて行ったロードムービーさながらの撮影も、常識にとらわれないライブ感に重きを置いたものだった。

「台本はきちんとあるのですが、お芝居したこともないだろうからって、台本に捉われずに演じてもらっていました。それこそ、関門人道トンネルのエレベーターのシーンなんて台本にはなくて。現場から現場の移動のときにせっかくだから彼女たちにもカメラを渡して、喋りながら撮ってもらったんですけど、それが超リアルで。あそこで扉がなかなか開かなかったときの4人のリアクションは、素のまんまです(笑)」

彼女たちの撮る映像がスクリーンの中で完全に横になったり、自転車を漕ぐ足を映し出したりするのも、スマホで動画を撮りまくるいまの人たちには親近感が湧くものだろう。

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お互いの気持ちを伝えるLINEの画面も、実生活ではもはや当たり前のことなのに、日本の最近の青春映画ではなぜかなかなか見ることのできなかったものだ。

「若者を描いた映画でそういう描写がないのは不自然だな~と以前から思っていたんです。映画監督は僕よりも年上が多いし、その人たちにその発想がないなら絶対にやった方がいいだろうなと思ったので、『ワンダフルワールドエンド』でツイキャスの画面を取り入れたんですけど、それで味をしめて。誰にもやられていないことをやりたいんですよね。台本には普通の会話のようにセリフが書いてあるんですけど、それを文字にして、彼女たちの映像と合成して。地獄のような日々でしたけど、今回のLINEの見せ方はうまくいったと思います」

こだわり5:好きなものがある人に届けたい

音楽と密接に関わる映画を撮り続けてきた松居監督だが、今回はクリープハイプの楽曲をあまり使わないようにしたという。

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「クリープハイプに寄せれば寄せるほど、痛くなると思っていて。

第1弾の『自分の事ばかりで情けなくなるよ』はミュージックビデオの発展形として作ったからガッツリ使ったけれど、今回はクリープのファンにだけ向けて作ったものではないし、音楽じゃなくても、何か走り出しちゃうぐらい好きなものがある人全員に届いたらいいなと思っていて。

そのときにクリープの曲がガンガンかかったら、彼らのファンじゃない人たちの気分が薄まってしまう。そこでこれは私たちの知らない世界なんだと思ったら、映画に入れなくなるので、劇中の歌いながら盛り上がっている4人は活かしたけれど、劇の外で流れる音楽としては2曲しか使っていないです」