三菱電機の静岡製作所営業部ルームエアコン販売企画グループの松本崇専任

エアコンを正面、右、左から角度を変えて見ると、視線の動きに合わせて本体表面のボルドーレッドの色合いも微妙に変化する。三菱電機が来年「霧ヶ峰」の誕生から50年を迎えるのを機に、「コンセプトモデル」として現在、「霧ヶ峰 FLシリーズ」を開発中だ。発売日は来春となっており、価格もまだ未定だ。

●エアコンひとつで、リビングの空気を変える

「ライフスタイルやデザインにこだわる層に特化したエアコンだ。従来の機能型ではなく、24時間、そのエアコンが存在すること自体が価値になる商品にしたい」。三菱電機静岡製作所営業部ルームエアコン商品企画グループの松本崇専任はこう説明し、まったく新しいコンセプトで設計・開発したエアコンであることを強調する。 事前の製品紹介カタログには、「エアコンひとつで、リビングの空気を変える」というキャッチコピーが添えられている。「空気」という言葉には、単に快適な空気を送るという意味だけでなく、リビングのインテリアと調和し、部屋の空間全体の中でのたたずまいや存在感から醸し出される空気という意味も込められている。

冒頭の見る角度によって色合いが微妙に変化する本体表面は、透明なパネルを裏面から塗装する際に、細い線を何本も横に引いて仕上げることで、深みと透明感を出しているという。

運転停止時は、風向きを調整するフラップが正面から見えないように完全に格納され、部屋のインテリアと調和するデザインに仕上がっている。

最近のエアコンは、機能や省エネルギー性を追求するあまり、室内機の熱交換器が年々大きくなっている。フィルターの自動お掃除機構も備わっているため、どうしても前面に押し出したデザインになる。FLシリーズは、省エネ性を追求するものの、自動お掃除機構をあえて外した。スリムな薄型デザインにこだわったためだ。

FLシリーズの開発にあたっては、三菱のプロダクト工程そのものを変える必要があった。これまでは、新しい機能を実現するデバイスをどのようにレイアウトするかといったプロダクト発想から着手し、耐久性などの品質保証を経て、どちらかというとデザインは後回しだった。

FLシリーズは、まったく逆の工程で開発した。神奈川県鎌倉市の大船にある三菱電機デザイン研究所のチームが最初にコンセプトやデザインを決めて、そこから開発や製造に着手したのだ。

●どう売るのかという課題にチャレンジ

課題はどのように売るのかということ。エアコンといえば家電量販店の主力製品の一つだが、エアコン売り場で見られるような他社のエアコンと一緒に横一列に並べられても違和感がある。

FLシリーズは、本体表面にプライスカードやPOPをベタベタと貼る姿が、もっとも似合わないエアコンといっても過言ではない。

ハウスメーカーやリフォーム業者などの設備系ルートでの販売方法も考えらえられる。マンションデベロッパーと組んで、モデルルームに展示するという手法もあり得る。いずれにせよ、家電流通の価格やスペック比較だけの訴求方法に一石を投じるエアコンになることだろう。来春のデビューが楽しみだ。

●イノベーションモデル「FZシリーズ」も顧客層を絞り込む

なお、BCNランキングで既報(三菱、48年ぶりの技術革新、二つの温度空間を実現したエアコン)した三菱のイノベーションモデル「霧ヶ峰 FZシリーズ」は、技術からのアプローチで一石を投じるエアコンである。

エアコン本体の天面に2つのファンを搭載することで、左右の風量を変えられる新開発の「パーソナルツインフロー」を搭載したモデルだ。

冷房定格能力は、4.0kW~9.0kWをラインアップし、普及モデルの3.0kWクラスをあえて投入しないあたりも顧客ターゲットを絞っている。「新築に住む若い男性や女性で、比較的大きなリビングのある家庭だ。そして、子どもが独立して、夫婦2人で住むためにリフォームする年配層がターゲットだ」(松本専任)。

デザインとイノベーションで、モノづくりの現場から変えていこうとする三菱の取り組みは今後も要チェックだ。(BCNランキング 細田立圭志)