コジマ×ビックカメラの店舗で初めて本店(宇都宮本店)の冠をつけた。栃木県宇都宮市は、コジマ創業の地で特別の思いがある。「原点回帰で地域No1の店を目指す」。「コジマ×ビックカメラ宇都宮本店」のオープニングセレモニーが行われた10月10日、コジマの木村一義代表取締役会長兼社長はこう心境を語った。コジマの今後を占う上で、重要な役割を担う宇都宮本店の売場から、コジマの変化を探る。

●規模や広さの同質競争をしない

「コジマ×ビックカメラ宇都宮本店」は、国道4号線と(宇都宮)競輪場通りの名前で地元に親しまれている幹線道路の交差点に立地する。10月4日に閉店し、従来の本店だった「旧コジマ×ビックカメラ東店」が移転し、新規オープンした店舗だ。

宇都宮本店の売場面積は約4200平方メートル。道路からの出入口は、3か所ありアクセスがいい。1階は駐車場で、2階の売場はワンフロアで全体を見渡せる構成だ。駐車場には358台の車がとめることができる。社員は30人で、パートやアルバイトが45人の合計75人体制で運営している。

旧東店の約5600平方メートルよりは小ぶり。だが、東店は売場が3フロアで構成され、顧客にとって使い勝手が悪かった。道路からの入口が1か所しかなくアクセスも悪く、駐車場も250台しかとめられないという問題があった。

家電量販店は、人口の減少や少子高齢化による郊外型店舗の苦戦が報じられている。それでも、木村会長兼社長は「これからは必ずしも規模、広さの勝負ではない。3000平方メートル前後の規模でも十分に戦える」と、新たな店舗展開に自信を見せた。

地域顧客のライフスタイルや年齢層を考慮して、店舗ごとに販売戦略を変えれば勝算はあるという。「画一的な同質競争なら規模の大きな店が有利だ。しかし、地域ごとの品揃えやカスタマイズした店舗展開であれば広さは関係ない」と、木村会長兼社長は宇都宮本店に込めた店舗戦略を語る。

今後は、宇都宮本店での試みや成功事例が全国の「コジマ×ビックカメラ」の店舗に波及していくこととなる。

●季節家電や生活家電を売場面積の約6割に

最初の変化は、木村会長兼社長が語る「原点回帰」だ。具体的には、冷蔵庫や洗濯機、調理家電などの季節家電や生活家電などの白物家電強化を意味する。宇都宮本店では売場面積の約6割をこれら白物家電の展示に充てている。

「ビックカメラと一緒になって、郊外店が苦手とするPCやカメラなどのデジタル家電を強化できたのは良かった。だが、郊外店が本来得意とすべき白物家電の販売力がやや手薄になってしまった。もう一度原点回帰して、季節家電や家事家電、生活家電など大型白物家電で、絶対に負けない売場を再構築したい」と、白物家電を再度強化していく方針だ。

売場づくりでは、年配の顧客が分かりやすいように、高さのある什器は使わずに全体を見通せるのが特徴だ。洗濯機売場では、洗濯容量と縦型やドラム式といったタイプ分類の案内と一緒に、2~3人、4~5人など家族構成を目安に示して選びやすくした。

新しい取り組みとしては、コジマ初のリフォーム専門コーナーを1階のエントランスに設置した。社員2人を置いて、地元工務店の新日本住研と連携して顧客に提案する。すべて自前で手掛けるのではなく、地元で実績と信頼のある業者とコラボレーションする手法を採る。

リフォーム専門コーナーは、設計段階で2階の展示が想定されていたが、宇都宮本店の金井和也店長が1階の設置を要望したという。金井店長は、「1階の入口に展示することで、店に来られた方も帰られる方も必ず目にする。コジマでリフォームを扱っているという気づきを与えられる」と、その狙いを明らかにする。

社員2人のうち1人は女性スタッフを配置した。キッチンやバスシステム、トイレなどリフォームの提案には女性の視点が欠かせないと考えてのことだ。ライバルと比べると遅いスタートになったコジマのリフォーム事業だが、本腰を入れて取り組む姿勢を示した。

●地域ごとにカスタマイズした店づくりとは

地域別にカスタマイズした店づくりとはなにか。例えば、エスカレータで2階に上がってすぐのスペースに、ケルヒャーの高圧洗浄機のデモスペースを設けた。

金井店長が宇都宮に赴任して最初に感じたのが、個人の車の保有率が高いこと。平日は一人で、週末は家族連れで、どこに行くにも車が使われる。車の洗浄ニーズを見込んで設置したケルヒャーは、デモスペースのほか掃除機コーナーの奥に壁面展示するなど力を入れた。オープン当日、多くのお客が興味を示していた様子から、金井店長の狙いは的中したようだ。

掃除機コーナーは、全面にじゅうたんを敷き、スティック型やキャニスター型、ハンディー型などの操作感を試すことができる。体感型の売場づくりにも力を注いでいる。

顧客視点の手書きPOPは、「われわれはメーカーの販売代理人ではない」と豪語する木村会長兼社長が、特に力を入れている施策だ。顧客からよく聞かれる質問をメモにして、販売員が分かりやすく説明することを心がけてPOPに落とし込んでいる。

例えば、冷蔵庫に飾っている販売担当者の等身大のPOPは、冷蔵庫の大容量化とスリム化で見逃しがちになる高さのチェックを促している。日本人女性の平均身長の158cmを示しながら、一番上の棚まで見えて手が届くことをアピールする。

●小物商品ほど丁寧な接客を

他にも、電池や電球などの売場で困っている顧客に声掛けするなど、きめ細かい対応にも注意を払う。大物家電の売上ばかりを追求するあまり、こうした点をおろそかにすると顧客が離れていくことを知っているからだ。

金井店長は、「メディアやケーブル類にいたるまで担当者が誰なのかを明確にして、責任をもって対応するようにしている」と、現場への指示を徹底している。

●ハイレゾがじっくりと視聴できる

話題性のある製品をじっくりと楽しんでもらうのも郊外店ならではの工夫だ。例えば、ハイレゾオーディオのコーナーでは、イスとテーブルを用意して、集中して音の違いを確かめられるようにしている。

ニューファミリー層が親子で楽しめるイベントの開催も、顧客の来店頻度を高めるための施策の一つだ。ドローンの体験会やミニ四駆サーキット、グランドゴルフの練習コーナーは、親子で楽しめるイベントとして賑わっていた。

ビックカメラの2015年8月期の連結決算は、売上高が7953億円(前年度比95.5%)、営業利益が188億円(同93.9%)、経常利益が204億円(同84.8%)、当期純利益が68億円(同69.1%)と減収減益に沈んだ。

しかし、ビックカメラ単体では、売上高が4448億円(99.3%)、営業利益は132億円(同115.9%)、経常利益は148億円(119.9%)、当期純利益は81億円(同127.1%)と減収だったものの利益はいずれも二ケタの増益だった。郊外店の多いコジマが63億円の当期純損失に陥るなど、結果的にグループの足を引っ張った。

コジマの取り組みの成否が、ビックカメラグループ全体の経営に影響を及ぼす。宇都宮本店の「創業の地での地域No.1店」宣言は、コジマやビックカメラだけに及ばす、郊外型家電量販店の新しい店舗のあり方としても業界の注目を集めている。

(BCNランキング 細田立圭志)