駆けつけた内外の写真家が、GR10周年のバースデーケーキを囲んで記念撮影

高級コンパクトカメラの代名詞とも言えるリコーの「GR」シリーズ。誕生10周年のイベントが10月24日、東京・原宿で開かれた。2005年10月に初号機「GR DIGITAL」を発売して満10年を祝うイベントに、多くのファンや写真家が集った。1996年に発売したフィルムカメラの「GR 1」から数えるとおよそ20年。これだけの長きに渡って一つのブランドが受け継がれ、支持され続けているコンパクトカメラは、ほかに例を見ない。

最新モデルはこの7月に発売した「GR II」。税別価格が8万円台後半と高価なカメラだ。一眼レフ並に大型のAPS-C撮像素子を搭載しつつも画素数は1620万画素。特に高画素数ではない。レンズはF2.8と明るめながら35mm版換算で28mmの単焦点。ズームはできない。手ぶれ補正機能すらなく、派手なスペックからはほど遠い存在だ。しかし、写真愛好家はもとより、プロの写真家にも根強いファンが多い。「GRは良く写る」。フィルム時代から評価が高いカメラだからだ。

GRを手にして驚くのは、画像の美しさはもとより、そのカスタマイズ性の高さだ。他のコンパクトカメラにはない、日常のスナップ撮影に適した設定を数多く用意している。例えば、半押しせずにシャッターボタンを押し込んだとき、AFを動作させず、一定の距離にピントを合わせて撮ることができる。しかも1mから無限遠まで6段階から選べるという芸の細かさ。とっさのスナップ撮影を想定した機能だ。道具として使い込むことを前提につくられている。だから、結果として「良く写る」わけだ。

市場をみると、コンパクトカメラの落ち込みは激しい。販売台数は41か月連続で前年割れ。消費税増税の駆け込み購入の影響もあり、瞬間的に前年を上回ることもあったものの、販売金額は5月連続で前年を割れている。スマートフォン(スマホ)に市場を奪われた結果だ。しかし、1インチ以上の大型撮像素子を搭載したコンパクトの販売金額は16か月連続で前年を上回り続けている。キヤノンやソニーの1インチ前後の撮像素子を搭載した製品がこの伸びを支えている。もちろんGRもその一翼を担っている。

餅は餅屋。もともと、スマホに比べカメラは撮像素子が大きくきれいな写真が撮りやすい。暗い場所でもなめらかで、ブレが少ないクリアな写真が撮れる。背景をぼかした写真も撮りやすい。1インチ以上の大きな撮像素子を搭載し、撮影に特化した道具としてのカメラであればなおのこと。スマホで撮るより、はるかに高いクオリティーの写真が撮れる。撮影の自由度も大きい。それを知っている消費者が、高価なカメラを買っている。

スマホで何度も何度も失敗しながら写真を撮っている光景を時々見かける。そんなとき、「ああ。カメラで撮れば一発なのに」と思う。たとえばGRは、決して安くもなければ販売シェアが高いカメラでもない。しかし道具としてはとてもすぐれている。だからこそ写真家にも支持され「たかがカメラ」の誕生祝いに多くのファンが集まる。縮小がとまらないコンパクトカメラ市場活性化のヒントは、ここに隠されている。(BCN 道越一郎)