東京グランプリを受賞した『ニーゼ』のホベルト・ベリネール監督

第28回東京国際映画祭は10月31日に、メイン会場であるTOHOシネマズ六本木ヒルズで行われたクロージングセレモニーで各賞を発表し、閉幕した。コンペティション部門ではブラジル映画『ニーゼ』(ホベルト・ベリネール監督)が最高賞にあたる東京グランプリを受賞。出演者のグロリア・ピレスが最優秀女優賞を獲得し、2冠を達成した。今年は『残穢〈ざんえ〉-住んではいけない部屋-』『FOUJITA』『さようなら』の日本映画3本がコンペティション部門に出品されたが、いずれも受賞は逃した。

受賞式の模様/受賞作品

『ニーゼ』は非人道的なショック療法が横行する精神病院に着任した女医のニーゼが、男社会の厚い壁を前に、ユング理論を実践した芸術療法で改革を進めようとする姿を描いた、実在のヒューマンドラマ。ドキュメンタリー作家として知られ、本作が2本目の劇映画となったベリネール監督は、「脚本の執筆を含めると、完成までに13年もの歳月がかかりました。主人公のニーゼという偉大な革命家は、あまり知られておらず、それだけに彼女の存在を世に知らしめることが私の責務でした」とトロフィーを手に、感無量の面持ちだった。

コンペティション部門の審査委員長を務めたブライアン・シンガー監督は、「実話であれ、フィクションであれ、観客が『これは本物だ』と思えることが大切。『ニーゼ』もそんな作品であり、生きる上での寂しさやユーモア、そして勝利を描いている。満場一致で決まった」と選出理由を説明。また、ニーゼ役で最優秀女優賞に輝いたクロリア・ペレスについては、「審議を始めて、5分で決まった」と明かした。ペレスは子役から40年以上のキャリアを誇る、ブラジルを代表する女優のひとり。

クロージングセレモニーでは各賞の発表に加えて、今年新設された『ARIGATO(ありがとう)賞』授賞式が行われ、映画界への目覚ましい貢献者として樹木希林、日野晃博、広瀬すず、細田守、リリー・フランキーが同賞を受賞。クロージング作品として、佐藤浩市と本田翼が共演する『起終点駅 ターミナル』(篠原哲雄監督)が公式上映された。

第28回東京国際映画祭の主な受賞結

東京グランプリ:『ニーゼ』(ホベルト・ベリネール監督)
最優秀監督賞:ムスタファ・カラ監督(『カランダールの雪』)
審査員特別賞:『スリー・オブ・アス』(ケイロン監督)
最優秀女優賞:グロリア・ピレス(『ニーゼ』)
最優秀男優賞:ローラン・モラー&ルイス・ホフマン(『地雷と少年兵』)
最優秀芸術貢献賞:『家族の映画』(オルモ・オメルズ監督)
観客賞:『神様の思し召し』(エドアルド・ファルコーネ監督)
WOWOW賞:『カランダールの雪』(ムスタファ・カラ監督)
アジアの未来作品賞:『孤島の葬列』(監督:ピムパカー・トーウィラ監督)
日本映画スプラッシュ作品賞:『ケンとカズ』(小路紘史監督)

取材・文・写真:内田 涼