(C)2015 枢やな/ミュージカル黒執事プロジェクト 撮影:岸隆子(Studio Elenish) (C)2015 枢やな/ミュージカル黒執事プロジェクト 撮影:岸隆子(Studio Elenish)

累計2100万部を誇る人気コミック『黒執事』をミュージカルにした『黒執事―地に燃えるリコリス2015―』が、11月7日、大阪の梅田芸術劇場メインホールで開幕した。ゴシック調のユーモアあふれる独特の物語が、漫画の世界からそのまま抜け出してきたようなキャスト、キャッチーな音楽、楽しいダンス、アクションシーンなどで生き生きと甦った。

「ミュージカル『「黒執事』-地に燃えるリコリス2015-」チケット情報

『黒執事』は19世紀の英国が舞台。名門貴族の若き当主・シエル・ファントムハイヴと、彼の執事で、正体は悪魔である執事のセバスチャン・ミカエリスの活躍を中心に描く。シエルは、ヴィクトリア女王から依頼され、裏社会の事件を片付け、セバスチャンも陰でそれを支えている。2009年に初めて舞台化されて以来、今回で5公演目だ。昨年は、コミックシリーズの中でも人気が高く、実際に19世紀末に起こった「切り裂きジャック事件」をモチーフにした通称「赤執事編」を舞台化した。今回は、その「赤執事編」に新たなキャストや演出、楽曲などを加えた再演となる。

まず、初演からセバスチャンを演じた松下優也に代わり、新たに抜擢されたのは古川雄大。松下が男っぽさと甘い歌声でセバスチャンを演じたのに対し、古川はスッとした美しさと、繊細かつ気品あふれる演技で見せた。高らかでどこまでも伸びる歌声も魅力だ。2代目というプレッシャーもあったと思うが、違和感なく物語の世界に溶け込み、見事にセバスチャンを演じきった。また、前回に引き続き、シエルを演じる福崎那由他は、悲惨な過去が原因で屈折し、何かとふてぶてしい態度を取るシエルの中に、ナイーブさが垣間見える演技が印象的だ。昨年は子どもらしい初々しさが目立ったが、今月14歳になったばかりの福崎は、そうは見えないほどの堂々とした存在感で、成長を感じさせる。

1幕目はふたりが、「切り裂きジャック事件」の犯人探しに奔走する中、セバスチャンがシエルに仕えるようになった経緯や、ふたりの関係性も浮き彫りになる。また、まぎれこんだパーティでふたりが仮装して踊るシーンも見どころだ。さらに、全身赤ずくめのマダム・レッドや、彼女に仕える内気な執事のグレルなど、おなじみの個性豊かなキャラクターたちもビジュアルを含め、原作ファンを裏切らず、新しい観客の興味もかきたてるはずだ。

2幕目では、「切り裂きジャック事件」の犯人が明らかになる。なぜ、犯人は猟奇的殺人を行うようになったのか。その背景が映像を駆使して描かれ、犯人には同情すら覚えてしまう。演出は前回よりシャープになり物語性も深まった。ゲームや映画音楽風にアレンジされた楽曲、ダンスの振付もエンターテインメント作品として力を増している。ぜひ、劇場で体感してほしい。

公演は、11月10日(火)まで大阪・梅田芸術劇場 メインホールにて上演。その後、11月14日(土)から15日(日)まで宮城・名取市文化会館 大ホール、11月21日(土)から29日(日)まで東京・赤坂ACTシアター、12月4日(金)から6日(日)まで福岡・キャナルシティ劇場でも上演される。チケットは発売中。

取材・文:米満ゆうこ