来年は高校生になる息子、小学校1年生になるまで一切の言葉を話しませんでした。通常、1歳児が発する「ブーブ」「マンマ」といった類の喃語も皆無。

2歳になっても3歳になっても何も言いませんでした。ママ友の子ども達が嫌々期を迎え「嫌だ、嫌だ」の言葉を発しているのを見て、とてもうらやましく思ったものです。

知的遅れのある自閉症と診断されたのは2歳3か月のときでした。それまでは「少し怪しい」とは思っていたものの…「自閉症かもしれない」と薄々気づいてはいたものの…見て見ぬ振りをして、現実に蓋をしていました。

目も合いよく笑う赤ちゃんでした。

ですから、診断を受けてからも「そんなはずあるわけがない、医者の誤診だ、ひょっとしたら耳が聞こえていないのではないか、だから喋らないのではないか…」と疑い何件も専門の耳鼻科をまわりドクターショッピングに費やす日々でした。当時の私は自閉症と診断されるより「お子さんは耳が聞こえません」と言われた方が「まだましだ」と思っていたのです。

でも、検査を繰り返しても耳の異常はありませんでした。

自閉症の我が子、聞こえすぎる耳

実はうすうす「耳には異常なし」の結果はわかってはいました。何故なら0歳の頃から掃除機をかけると大泣きし、CDを流すと特定の音を酷く嫌がりました。むしろ「耳が過敏すぎる子」と感じていたくらいでしたから…聞こえないどころか聞こえすぎる子どもでした。

幼児期は更に嫌がる音が多くなり、ドライヤー、洗濯機、掃除機とありとあらゆるモーター音にパニックを起こしました。特に手を自動的に乾燥するジェットタオルがダメで、外出先で公衆トイレを使うことができず苦労しました。

初めての言葉、どうしても伝えたかった事

さて、そんな息子が人生で一番最初に口にした言葉。それは「まだ食べる!」

いきなり2語文でした。しかも自閉症らしからぬ自分の意思をはっきりと示す言葉でした。

ちょっと大げさですが、その日は突然やってきました。 

渋谷の東急東横店の9階にある讃岐うどん屋に連れて行った時の出来事でした。

アルバイト店員がうどんがの切れ端が1本残っていた食器を「お下げ致します」と持って行こうとしたその時、放った一言!「まだ食べる!」

私は息子の初めて言葉を聞いてうどん屋で舞い上がってしまいました。6歳でした。

「ママ、ママ」と呼ばれた経験がなかった私。喋った相手はうどん屋のアルバイトの兄ちゃんでしたが、すごく嬉しかったのを覚えています。