長らくパリを拠点に活躍していた女優・作家の岸惠子が、今年も2部構成のトークショー『ひとり語り 輝ける夕暮れ』を開催する。第1部の一人芝居『わりなき恋』は25万部以上を売り上げた自身の同名小説が原作。今年は2015年の初演から魅力を凝縮した、新演出版をお届けする。国際線の機内で偶然隣り合わせた男女の恋を描いた本作は、自身の体験をもとに創作したと明かす岸惠子。その時、隣席の男性から「パリを経由しプラハへ行く」と告げられた岸の脳裏には、ある光景が蘇っていた。

岸惠子 ひとり語り「輝ける夕暮れ」チケット情報

1968年、各地で学生紛争が頻発するなど世界は革命の時代にあった。30代だった岸はチェコの民主化運動を取材するためプラハへ飛んだ。「その男性も当時『プラハの春』と呼ばれたドプチェクの革命に胸を熱くした大学生で、プラハの春は僕にとっても青春の大事な1ページですと仰ったのです」。それまで小説の主人公像を掴みきれずにいた岸は、この偶然の出会いからインスピレーションを得て『わりなき恋』を上梓した。「認知症や健康についてのテレビ番組が多い中、赤ちゃん言葉で介護されている老人の映像を目にした時は、どんな人間にも尊厳はあると憤りを感じました。人生100年の時代にも、ぱぁっと虹が立つほど華やかな人生の夕暮れ時があっていい。この公演名には、黄金色の夕映えが見れたらいいなとの思いを込めました」。

第2部は、初めて訳したおとなの絵本『パリのおばあさんの物語』の話から、世界で活躍する岸ならではの彩り豊かな人生観を、ユーモアたっぷりに語り尽くす。「先日は私の散歩道にあるノートルダム大聖堂が火災に見舞われ、スリランカでも大規模なテロがありました。世界は刻々と変化しているのに日本人は割合にのんびりしていて、そこが良くもあり腰砕けな部分でもある」。24歳でパリに渡って以降、岸は積極的に世界中で取材と冒険を重ねてきた。「私もぺしゃんこに失敗する時だってある。ただ、この冒険心と行動力がなかったら今ごろ退屈なだけの老後を送っていたと思います。男女問わず特に若い方には、世界情勢にもっと敏感になってほしい」。同時に、日本人はもっと“自分を思いやった方がいい”とも。「人が雑に考えた常識の枠にはまらず、自分で考えて行動する。自分の考える自分を生きた方がいいと思います」。

年齢を感じさせない熱い語り口とスマートな身のこなし、気品溢れるオーラは健在だ。5月初旬には新作エッセー『孤独という道連れ』が発売された。「ひとりの生活は不便や寂しさもありますが、ひとりじゃないと味わえない自由や喜び、蜜のような甘さもある。そんな話もしてみたいなと思います」。大阪公演は6月11日(火)フェスティバルホールにて上演。チケット発売中。

取材・文:石橋法子

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