WBB vol.9『殺意は月夜に照らされて』 WBB vol.9『殺意は月夜に照らされて』

「気をつけろ、これは罠だ!」
豪雨の峠で、一夜の宿を借りようと豪奢な館を訪れた一行を迎えたのは、たった今まで食事をしていた気配が残る、しかし無人の食卓だった。果たして、繰り広げられたのはシリアスな謎解き、かと思いきや……!?

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11月14日(土)に幕を開けたのはWBB vol.9『殺意は月夜に照らされて』。WBBとは、佐野瑞樹・佐野大樹による兄弟プロデュースで『みず=WATER』『だい=BIG』『兄弟=BROTHERS』の頭文字を取り結成。互いの活動で得たすべてを駆使して放たれる極上の舞台なのだ。そして、今回は兄・佐野瑞樹の企画により脚本に徳尾浩司、演出に亀田真二郎を迎えて届けられた。

劇場に一歩入ると、そこには雨音に包まれた空間が広がる。舞台の上には瀟洒なリビングのセット。「まるでアガサ・クリスティの小説みたいだな」という、あるキャストのセリフ通り、待っていたのはワクワクドキドキするサスペンス・コメディだ。

嵐の夜に辿り着いたのは、結婚式の二次会帰りという5人。彼らは安楽英和(荒牧慶彦)とその姉の披露宴に参加した、彼女の大学の同級生たちでアガサ研ことアガサ・クリスティ研究会の仲間だった。実は安楽の姉に惚れていた園田浩一(佐野大樹)、その同級生の亀井秀介(永島敬三)と未解決事件マニアな西久保アキラ(林野健志)、留年と休学を繰り返した先輩、古屋宗雄(森戸宏明)は持ち前の好奇心と無駄に前のめりすぎる行動力とで、無人の食卓の謎に挑むべく勝手に捜索を始めだす。しかし次から次へと誤解が生じて行き違い、事態は思わぬ方向へ。ドカンドカンと舞台を騒がせる彼らとは別に事態を撹乱するのは小山賢作(佐野瑞樹)と槇野啓(古川裕太)。やがて物語は「赤松峠の殺人事件」と呼ばれる、未解決事件と絡み出す。

佐野大樹がカッコよく早とちりし、永島敬三がにぎやかに油を注ぎ、林野健志が不遜な態度で斜め上の推理を広げて、荒牧慶彦はにこにことマイペースに事態を進め、森戸宏明は無駄にやかましくかき回し、佐野瑞樹は淡々と実に当然の権利を主張し、古川裕太は寡黙に佇み爪を噛む。キャストが出たり入ったりしての行き違いに思わず吹き出しながらも、停電により状況が一転し度肝を抜かれ……とワンシチュエーションならではの軽快な展開が続く。そのテンポにつられて観ていると、一気に舞台はスリリングな方向へ。心がぐいっと引っ張られ、惹きつけられてしまう感覚がたまらない。特に注目したいのは終盤の、瑞樹と大樹兄弟のどシリアス、なやりとり。いつもはふざけ倒している(?)、ふたりの意外な姿も堪能してほしい。

すべての関係が明かされる時、舞台に残っているのは誰か? ──そんな彼らの公演は11月23日(月・祝)まで、東京・赤坂RED/THEATERにて上演。

取材・文:おーちようこ