『Battlefield』フォトコールより 『Battlefield』フォトコールより

11月25日に東京・新国立劇場で開幕した、舞台『Battlefield 「マハーバーラタ」より―戦い終わった戦場で―』。開幕前日、公開舞台稽古が行われた。

舞台『Battlefield』チケット情報

同作は、今秋パリで初演を迎えたピーター・ブルックの最新作。「マハーバーラタ」とは、全18編、約10万の詩句から成るインドの大叙事詩で、およそ聖書の4倍の長さに相当し、世界の創生から始まり、バラタ家(バーラタ)の争いを軸に展開される。前作『マハーバーラタ』では、その大叙情詩を「賭け」「追放」「戦争」の三部作に集約し、全9時間をかけて上演。1985年に初演され、日本を含む世界各地で上演された伝説的作品だ。

それから30年の時を経て、90歳を迎えたブルックが再び挑んだのが今作。すべての戦いが終わり、無数の骸で大地が覆われた戦場(battlefield)が物語の舞台だ。物語は、大量殺戮によって勝者となった軍の総帥が、しかし「この勝利は敗北だ」と吐き捨てるところから始まる。

同作についてブルックは「沈黙に耳を澄ませていたら、今やるべきなのはシェイクスピアでもオペラでもなく、これだろう。そう時代に促されたのだよ」と語る。奇しくも同作の初演の地であるパリでの同時多発テロが起こるなど不安定な世界情勢下にある今。総帥が悔恨、罪悪感にさいなまれる姿からは、これが遥か昔の物語でありながら同時に現代の苛酷な争いを映し出している事に気づかされるはずだ。

舞台装置はほぼ何もなく、舞台上に登場するのもわずか5人。1人は前作『マハーバーラタ』でも音楽を担当した土取利行。前作では30以上もの楽器を使ったが、今回はジャンベ(太鼓)のみを使い、生演奏する。土取のジャンベの音が響く中、4人の俳優たちが色鮮やかなショールを使い分け、さまざまなキャラクターを演じ分けていく。舞台、人、音、台詞、すべてがシンプル。だからこそ凝縮され、あぶりだされる深い示唆に富んだ世界が、心に深く刻まれるのだろう。

上演時間は70分。台詞は英語だがスクリーンに字幕が出るので、英語がわからなくても安心して観劇できる。

公演は11月29日(日)まで東京・新国立劇場にて。

取材・文:中川實穗