『アーティスト』の舞台は、サイレントからトーキーへと移り変わる'30年前後のハリウッド。サイレント映画が消えていった変革期を敢えてサイレントで描く︱︱という構成は、趣向として面白いというだけでなく、フィルムからデジタルへと移行する現代の映画界まで想起させて興味深い。また監督のミシェル・アザナヴィシウスが300本を超えるサイレント映画を研究したというだけあって、古き良き名作たちへのオマージュが随所に盛り込まれており、ピュアな〝映画愛〟に満ちていることもさまざまな映画賞を席巻した要因のひとつだろう。

しかし一番重要なのは、本作がただ懐古趣味ゆえに支持されたのではないということ。シンプルを極めたサイレントという表現が現代の監督によってアップデートされ、サービス過剰な昨今の映画に慣らされた観客に、非常に新鮮な体験として機能したのである。映画はまだまだ思いもよらない可能性を秘めている。そんな確信こそが、『アーティスト』が与えてくれる最大の収穫ではないだろうか。

 

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