「ペットと家族同様に暮らしていても、何かあると自分の都合が優先、という飼い主が少なくないことは否定しません。彼らは、ペットを愛している(LOVE)のではなくて、好き(LIKE)なだけでしょう。しかし、保護猫カフェに限らず、人間の身勝手な理由による殺処分をなくそうと熱心に活動する保護団体やボランティアさんも全国にたくさんいます」

こう語るのは、カフェスペース付き開放型シェルター(保護猫カフェ)を立ち上げたNPO法人東京キャットガーディアン代表で、書籍『猫を助ける仕事――保護猫カフェ、猫付きシェアハウス』の著者でもある山本葉子さん。

山本さんが言うように、身勝手な飼い主は少なくありません。彼らが猫を手放す理由のほとんどが、「引っ越しをする」「子どもが飽きた」「介護に手いっぱい」など、飼う前にわかっていたこと。その責任は、もちろん飼い主にあるのですが、彼らを責めてばかりいても問題の解決は遠のくばかりです。

「猫の殺処分を何とかしよう」と、改善に向けて動いている団体やボランティアが数多くあり、山本さんの東京キャットガーディアンもその一つ。東京・大塚駅近くのビル最上階にある同施設には、保健所や動物愛護センターから引き取ってきた数多くの猫が過ごしています。

引き取られた後、猫たちは獣医による診察を受け、ワクチン接種・不妊去勢手術を行い、東京キャットガーディアンにデビューします。

温かい日差しが差し込む同施設。広い空間で猫たちがのんびり、そして気ままに遊んでいます。施設を訪れる里親希望者はそんな猫の姿を眺めたり、読書をしながら一緒に過ごすことができるのです。その場で面談を受けることも可能だそうです。

東京23区という通いやすい立地や、過ごしやすい施設の空間もあり、これまで4000頭以上の猫を里親に譲渡してきました。同施設のようなオシャレなところで猫選びができると、里親も嬉しいですよね。

このように、保護施設から猫の里親になる人がたくさんいれば良いのですが、まだまだこちらは少数派。多くの方は、ペットショップやブリーダーから購入していますよね。これがペット先進国の英国になると、保護施設やブリーダーから購入することが既に一般的になっています。東京キャットガーディアンのような、綺麗でワクワクするような猫の保護施設を増やすことは、これからの課題だと思われます。

飼い主が猫を行政に預けた場合は、こういった東京キャットガーディアンなどの施設を経由して、里親とめぐり合うチャンスがありますが、野良猫になってしまった場合では、あまり良い未来が待っていません。

ただ、野良猫だからといってほっておくと、殺処分の数が増える一方です。仮に、地域に住み着いてしまった野良猫がいるならば、不妊去勢手術を行い、繁殖を防ぐ必要があります。

現在、アメリカでは、TNRという地域の取り組みが行われています。これは、アメリカで定着している野良猫の管理方法で、TNRは「Trap(捕獲)」「Neuter(不妊)」「Return(元の場所に戻す)」の略語。猫を一度捕獲して、不妊去勢手術をして地域に戻すのです。日本で殺処分ゼロを目指すには、もっとこういった施策を導入するべきでしょう。

「日本の流通問題を俯瞰すれば、殺処分ゼロ達成のために足りないのは愛情ではなくシステムだといえないでしょうか。ここでいうシステムとは、法規制だけでなく、ペット流通や保護活動のあり方も含めた社会的な仕組み」猫を助ける仕事――保護猫カフェ、猫付きシェアハウス

「猫を愛し続けよう!」「猫が初めて家に来た日をわすれるな!」と精神論で訴えるよりも、世の中のシステムを変えることの方が大切。

東京キャットガーディアンでは、この「飼い主のいない猫の繁殖を抑制する地域猫活動」を支援しており、「民間の保護団体からペットを譲り受ける新しい流通ルートの確立」にも取り組んでいます。

また、「猫付きマンション」「猫付きシェアハウス」など不動産ビジネスも運営。メディアへの露出を増やしながら、事態の改善につとめています。

「足りないのは愛情ではなくシステム」

捨て猫や猫の殺処分と聞くと、私たちはつい感情的になってしまいますが、そういった精神論ではこれまで何も解決してきませんでした。大切なのはシステムの構築。東京キャットガーディアンをはじめ、団体・ボランティアの活動を助け、一緒に日本のシステムを変えていくことが大切なのではないでしょうか。

ペットを愛する私たちには、まだまだ“できること”がたくさんありそうですね。

<参考書籍>
『猫を助ける仕事――保護猫カフェ、猫付きシェアハウス』山本葉子・松村徹著(光文社)