【事例5】
ある被験者に、胃の苦痛を和らげ穏やかにする薬「A」と、吐き気を起こさせる薬「B」を与えた。
その後、AとBの薬を、それぞれの薬の名前を逆に伝えて被験者に与えたところ、Aを飲むとひどい吐き気がし、Bを飲むと楽になったと報告

さらに、それがプラシーボだとわかっていても、プラシーボ反応を示すことも。

【事例6】
神経症の患者に「これは砂糖の錠剤で、有効な薬剤は含まれていない」と説明したうえで、錠剤の入った瓶を渡し、1日3回、1週間飲ませた。その後、15人のうち13人の症状が改善(1人は未確認)。このうち、「実際は本物の薬なのだろう」と疑いながら飲んでいた人には、いくつもの薬の副作用が見られた

プラシーボ効果に関する数々の不思議な事例を見ていくと、「人間って何なんだ?」「薬って何なんだ?」と思わずツッコミたくもなるが、心の持ち方次第で、よりよい結果を生み出す可能性がおおいにある、ということを示唆してくれる。

じつは実用面での期待が大きい“本物のプラシーボ”

そんな“プラシーボ効果”に着目し、“本物のプラシーボ”を作ってしまった会社がある。

その名もずばり、「プラセボ製薬」。
薬を売っているわけではないので製薬会社ではないが、それも“プラシーボ効果”を狙ってのものらしい。

なぜ、“本物のプラシーボ”を作ろうと思ったのだろう?
その経緯を、プラセボ製薬株式会社代表・水口直樹さんに聞いてみた。

「本音を言えば興味本位、ジョーク半分ですが(笑)、介護用途で偽薬が求められていることがわかっており、事業として成り立つかな、と思われましたので」

薬学部を出て、製薬会社に勤務。新商品開発の部署でプラシーボを提案したところ、あえなく却下されたため、独立したという。

本物のプラシーボとして販売されている「プラセプラス」は、認知症の高齢者などが薬を飲み過ぎたり、飲みたがったりする場合に、介護者が渡す薬の代用品としての利用シーンを想定して作られた。

実際に介護現場で使われ、成果を上げているほか、西洋医療の現状に疑問をもつ、東洋医学や統合医療的な治療者の方々から、治療の一環として使えるのでは、という問い合わせもあるという。

大量の薬の飲み忘れや増え続ける医療費など、薬にまつわる諸問題がフツフツと噴き出している昨今、まじめに、前向きに、本物の薬との併用が期待される。

プラシーボをオーダーメイドできる!?

今後も、いろいろなタイプの製品が生まれるのだろうか。

「色、大きさ、味、剤型、また坐剤や塗り薬など、偽薬に関する多様なご要望をいただきますが、いかんせん、少量・多品種の製造は採算面で難しく、お断りしているのが現状です。
今後の課題として、少量からオーダーメイドで受注できれば、とは思います」

薬や健康食品、タバコなどをやめるための“補助剤”のような使い方もあるのではないか、と水口さん。
また、吉本興業の「オモシロクナール」のように、ラベルデザインを変えての展開はあるかも、とのこと。

「元気が出るような、コミュニケーションの手段となるようなものを考えていきたいですね。
スマホ依存症の人のための『スマホヤメルミン』とか。スマホを触りたくなったら、飲んでくださいというような。…効果・効能はありませんが(笑)」

でも、もしかしたら、3人に1人くらいには、効果が出たりしてしまうのだろうか?
今後もプラシーボの活躍を見守りたい。

参考:『プラシーボの治癒力 心が作る体内万能薬』ハワード・ブローディ著/伊藤はるみ訳

ライター/女子栄養大学 食生活指導士1級。学生時代からさまざまな体調不良に悩まされたこともあり、健康的な生活習慣について学び始める。現在は専門家を中心に取材活動を行い、おもに食、健康、美容、子育てをテーマにした記事を発信。乗りもの好きな1男の母でもある。