ポーランド国立ワルシャワ室内歌劇場 『魔笛』

モーツァルトのオペラの殿堂、ポーランド国立ワルシャワ室内歌劇場が、この秋に来日する。1999年の初来日以来、今回で8回目の来日となる。モーツァルトのオペラ全21作品をレパートリーに持つという同劇場だけに、今回も得意のモーツァルトを披露する。

【チケット情報はこちら】

オーケストラはモダン楽器ではなく、同劇場の来日公演では初めてというピリオド楽器(その楽曲が作られた当時使われていた楽器のこと。オリジナル楽器、古楽器ともいう)を使用。「モーツァルトの時代を作りたい!」という熱のこもった演奏にも期待がふくらむ。

演目は『フィガロの結婚』と『魔笛』。モーツァルトの代表作であるばかりか、あらゆるオペラのなかでも屈指の人気作といっていいだろう。これまでオペラにはなじみがなかった方が、オペラ・デビューを果たすのにも格好の2作品といえる。

まずは『フィガロの結婚』。1786年、ウィーンで初演された。当時、絶頂期のモーツァルトが、ボーマルシェの戯曲をもとに作曲。台本は台本作家のダ・ポンテがイタリア語で書いた(イタリア語上演/日本語字幕付)。ストーリーをひと言でいえば、18世紀版の「ラブコメ」だ。主人公のフィガロはアルマヴィーヴァ伯爵の使用人。同じく使用人のスザンナとの結婚が決まっているが、そのスザンナをものにしたい伯爵と、伯爵の浮気を嘆く伯爵夫人、女と見ればだれにでも恋をしてしまう美少年ケルビーノらが加わり、てんやわんやの大騒動がくりひろげられる……コメディだが、その裏に込められるのは階級社会批判。笑って、泣けて、考えさせられる作品だ。モーツァルトの筆は神がかっていて、「恋とはどんなものかしら」「もう飛ぶまいぞ、この蝶々」など名アリアが満載。最初から最後まで全編が聴きどころと言ってもいいほど。これほどの高揚感と幸福感にあふれた作品がほかにあるだろうか。

『フィガロの結婚』が全盛期なら、『魔笛』はモーツァルトの終着点だ。初演は1791年、ウィーンにて。初演からまもなく、モーツァルトはわずか35歳で世を去った。

『魔笛』はドイツ語で書かれている。大衆的な劇場のために書かれた歌芝居のため、格調高いオペラとは違い、母国語で上演されたのだ(ドイツ語上演/日本語字幕付)。こちらの物語は、ずばり、大人のためのメルヘン。王子タミーノがパートナーを見つけて結婚するという話なのだが、そこに夜の女王や神官ザラストロ、道化役の鳥人間パパゲーノなど、超自然的な存在が関わってくる。ハッピーエンドの結末ながら、なにが善でなにが悪なのか……終演後に語り合いたくなるオペラだ。高音を駆使する『夜の女王のアリア』をはじめ、こちらも聴きどころ満載になっている。

キャッチーな名曲の数々と魅力的なストーリー。親しみやすさと奥深さを兼ね備えたふたつの傑作を堪能したい。

公演は11月9日(土)・10日(日)の東京文化会館 大ホールのほか、八王子、群馬、神奈川を巡演。

文:飯尾洋一