ショップ側に法的責任はあるのか?

フラゲ購入者がいるということは、発売前に売ってしまうショップが存在するということだ。このショップ側に違法性はあるのだろうか。

「法律には違反していません。しかしショップには『○月○日に発売してください』と決めた、メーカー側との契約があるはずです。法律違反ではなく契約違反ということで、メーカーからのペナルティを科せられる可能性はあると思います。あまりに社会常識を逸脱した違反条項は押しつけられませんが、たとえば『今後は新作ゲームを仕入れさせてもらえない』といったペナルティは十分にありえます」(岩沙氏)

逮捕や起訴はされないがメーカーからの“私的制裁”を受けるかもしれない――というのが、フライング販売するショップ側のリスクになるわけである。

なお余談だが、フラゲ購入者は嬉しさのあまりか、レシートまでネットにアップしてしまうことがまれにある。当然そこには店舗名も記載されており、これが原因でショップがメーカーからペナルティを受ける可能性はゼロではないだろう。そうなったショップ側が客に対し「お前のせいで次から仕入れできなくなってしまった。ペナルティ分の損害を補填しろ!」と訴えることは可能なのだろうか?

「もしショップと購入者との間に『フライング販売した店舗名を明かさない』という約束があったとすれば、約束違反により損害賠償を請求することは“法律上は”成り立ちます。ただ、損害賠償が認められるには因果関係がなければなりません。ネットにアップされたレシートが原因でショップがペナルティを科せられたと立証するのは相当困難だと思います。

それに、ショップ側はすでにフライング販売したことで、メーカーとの約束に違反しています。この過失相殺も適用されうるため、ショップの訴えがそのまま認められるのは難しいでしょうね」(同)

まさしく自業自得、因果応報ということのようだ。

違法でなくてもフラゲはほどほどに

今回、岩沙弁護士から答えてもらった内容をまとめてみよう。

【フラゲの合法or違法】
・購入者に直接の違法性はない
・違法アップロードなどをすれば別の罪に問われる
・販売したショップ側にも法的責任はない
・ただしメーカーからのペナルティを受ける可能性はある

フラゲ行為そのものについて、購入者・ショップともに違法性はないという結論になった。しかし合法だからといって堂々とフライング売買をする、またはそれを大っぴらに自慢するのが正しい行為かどうかは別の話だろう。

人気ゲームのフラゲが横行すると、善良な一般ユーザーが「発売日にお目当てのゲームが購入できない」といった迷惑をこうむりかねない。また、なにげなく眺めていたTwitterのタイムラインに突如として「発売前だけど最新作のラスボスはこいつだよ!」と重大なネタバレが流れたりすれば、そのゲームを楽しみにしていたファンとしては興ざめである。

地域の小売店にもフラゲは影響をおよぼすだろう。ほとんどショップが発売日を守っているのに、一部がそれを破ってしまえば貴重な客を奪われてしまうかもしれない。ただでさえスマホゲームが台頭してきているなか、薄利多売のゲームショップとしては死活問題だ。

ゲームを愛しているならマナーを大切に、発売日に届くようウェブで予約を入れておくか、直接並んで購入したいものである。

岩沙 好幸(いわさ よしゆき)
弁護士(東京弁護士会所属)。慶應義塾大学経済学部卒業、首都大学東京法科大学院修了。弁護士法人アディーレ法律事務所。
パワハラ・不当解雇・残業代未払いなどのいわゆる「労働問題」を主に扱う。
動物好きでフクロウを飼育中。
近著に『ブラック企業に倍返しだ! 弁護士が教える正しい闘い方』(ファミマドットコム)。
『弁護士 岩沙好幸の白黒つける労働ブログ』も更新中。
アディーレ法律事務所 刑事弁護

パソコン誌の編集者を経てフリーランス。執筆範囲はエンタメから法律、IT、教育、裏社会、ソシャゲまで硬軟いろいろ。最近の関心はダイエット、アンチエイジング。ねこだいすき。