映画『アポロ18』について語る長沼毅氏

人類を月へとおくった“アポロ計画”の知られざるエピソードを描くフェイクドキュメンタリー映画『アポロ18』が14日(土)から日本公開される前に、広島大学准教授の長沼毅氏がインタビューに応じ、人類と宇宙との関わり、そしてその裏側に潜む謎について語った。

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『アポロ18』は、1961年から72年にかけて計6回の有人月面着陸に成功するも、なぜか17号をもって計画を終了した“アポロ計画”に実は18号があった、という設定のフェイクドキュメンタリー。『ウォンテッド』のティムール・ベクマンベトフが製作を務め、宇宙飛行士たちがおさめた記録映像に映し出されていた“衝撃の真実”を生々しいタッチで描いている。

生物海洋学や微生物生態学などを専門にしている長沼氏は、宇宙への想いや関心が強く、かつて宇宙飛行士採用試験で準決勝まで残った経歴をもつ。それだけに“アポロ計画”への想いも格別だ。「冷戦時代では宇宙だけでなく、深海をめぐっても競争がありました。でも宇宙の方に熱が入ってしまう。それは“外の世界”に飛び出していこうという意思のあらわれだと思います。当時は世界初の人工衛星と有人宇宙飛行でソ連に先を越され、アメリカには後がなかった。それだけに成功の喜びは大きかったのではないでしょうか」。

その反面、1969年は激化するベトナム戦争を背景に、若者たちが“国家は何かを隠蔽し、人々を裏切っている”と反旗を翻した時代だ。「当時の反戦運動の背景には米ソの冷戦がありました、アポロ計画の背景も同じです。ベトナム戦争はわかりやすい“悪”で、アポロはわかりやすい“勝利”です。私は“成功談だけ”という話を信用しませんが、アポロの場合は13号という失敗がある。結果的に3人は生還できましたが、この失敗が人々に真実味を与えたと思います」。

しかし、それは本当に単なる失敗なのか? と長沼氏は言う。「あの失敗は公表しやすい失敗だったんじゃないかという気もします。“白い失敗”というのかな。そして“白い失敗”があるところには、“黒い成功”がある」。私たちは日ごろ、何かのミスや過失の隠蔽には過剰に反応するが、成功の隠蔽には鈍感であるか見過ごしてしまうことが多いのかもしれない。「アポロ計画はその初期からすべてが公開され、結果を知っています。でもそれらをつなげていくと『あれ?』と思うことがある。例えば、アポロ16号と17号では地球から微生物を一式持っていって、宇宙空間にさらしても死なない場合があることを実験で確認しています。なのに計画はそれっきりで終わってしまった。もし18、19号と続けば生物関係の実験がメインになったでしょう。でも、なぜやらなかったのか? 宇宙で生物が死ななかったことはある意味で“成功”のはずなのですが」。

映画『アポロ18』はフィクションだが、そこに描かれている衝撃の展開は、長沼氏が語る話と関連するものが多いだけに、日本公開後、強いリアクションを集めることが予想される。

『アポロ18』
4月14日(土)より渋谷TOEIほかにて全国ロードショー