安定感のある大森美香の脚本

『あさが来た』の脚本は、村川絵梨が主演した第73作目の『風のハルカ』(2005年下半期)以来、2度目の朝ドラ執筆となる大森美香が担当している。

大森美香は、2005年1~3月期のフジ系月9で放送された『不機嫌なジーン』で向田邦子賞を受賞。それ以前の『カバチタレ!』(2001年・フジ系)や『ランチの女王』(2002年・フジ系)、『ニコニコ日記』(2003年・NHK)なども名作で、日常的な会話の中で印象に残るセリフをズバっと書ける、才能豊かな脚本家だ。

とくに、コミックが原作の『カバチタレ!』は、主人公を男性から女性に変更するなど、脚色された部分も多い作品だったが、ドラマとしての世界観がしっかりと構築されていて、何度見ても面白いと思える作品だった。

今回の『あさが来た』も、フィクションとしての世界観がはっきりとしていて、じつに見やすい作りになっている。基本的には、まだ女性が表舞台に出て活躍できる時代ではなかった幕末から明治、大正時代にかけて、実業家・教育者として成功した女性の話なのだが、ヒロインのあさ(波瑠)と夫である新次郎(玉木宏)の夫婦物語という軸がしっかりと設定されていて、見ていてもブレないという安心感がある。

女性だけでなく男性の視聴者にも訴える内容

夫婦の関係は、あさと新次郎以外の夫婦も丁寧に描かれていて、全体としては重層的な構造になっている。そのメインとなるあさと新次郎の関係が、現代の働く女性からも魅力的にみえる夫婦像なので、女性視聴者からの支持は幅広く得られている印象だ。

『あさが来た』は、この夫婦関係を中心として、家族の結びつきが強かった時代のホームドラマでもあるのだが、ヒロインが実業家として成功していく話なので、ビジネス物語としての側面もある。幕末から明治という時代背景に加えて、起業家のサクセスストーリーでもあるので、男性視聴者もしっかりと取り込んでいる感じだ。

さまざまな切り口があり、いろいろな見方ができる作品にも関わらず、ひとつのドラマとしてまとまった魅力を発揮している。これは、大森美香の脚本の力が大きいといえるだろう。

魅力を発揮する豊富なキャスト

脚本や演出もさることながら、キャストも十分に魅力を発揮している。

ヒロインのあさを演じる波瑠は、芯の強さを見せながらも透明感があって、バイタリティーあふれるヒロインのキャラを暑苦しくしてないところがいい。『BORDER 警視庁捜査一課殺人犯捜査第4係』(2014年・テレ朝系)での波瑠が妙にカッコよくて、もっと大きな役をやってもらいたいと思っていたので、今回の朝ドラでヒロインを射止めたのは個人的にもうれしかった。

ヒロインの夫・新次郎の役は、時代背景からするとかなり難しい役だと思うが、玉木宏が魅力的に演じている。あさの姉・はつを演じている宮崎あおいは、さすがの安定感。あさが嫁いだ加野屋の番頭・雁助(山内圭哉)や亀助(三宅弘城)もいい味を出していて、作品のアクセントになっている。

最初ははつの付き人で、その後加野屋の女中になったふゆを演じている清原果耶は、現役の中学生。このドラマをきっかけにブレイクしそうなので、今後も注目だ。

ドラマは今後、銀行設立、女子教育への取り組みなどへ話が進んでいく予定になっている。銀行はもうないが、広岡浅子が成瀬仁蔵らと設立に奔走したのが、現在の日本女子大学だ。

フィクションとしてどこまでドラマで描かれるかは分からないが、紡績事業への参入(現在のユニチカ)、生命保険会社の設立(現在の大同生命)なども描かれる可能性は高い。