「高畑勲展 ─日本のアニメーションに遺したもの」

数多くの革新的な作品を発表し、日本のアニメーションに多大なる影響を与えたアニメーション監督・高畑勲。その高畑初の回顧展『高畑勲展―日本のアニメーションに遺したもの』が、7月2日(火)から10月6日(日)まで、東京国立近代美術館で開催される。アクションやファンタジーではなく、日常生活に寄り添った、豊かな人間ドラマとしてのアニメーションを確立した高畑。本展では、半世紀を超える高畑の創作の秘密を、その演出術に着目し4つの章から紐解いていく。

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まず第1章は「出発点:アニメーション映画への情熱」。ここで注目すべきは、初の演出(監督)作品となった『太陽の王子 ホルスの大冒険』だろう。高畑は絵を描かないアニメーション監督であり、作画監督や脚本家など、各スタッフと対話を重ねることで、これまでにない作品世界を構築。それは登場人物の香盤表や作画担当表といった、高畑による緻密な資料群からも伺うことが出来る。また本章には、遺作となった『かぐや姫の物語』に通じる貴重な資料「ぼくらのかぐや姫」も展示。

第2章は「日常生活のよろこび:アニメーションの新たな表現領域を開拓」。ここでは子供を主人公に、子供が楽しめる作品づくりを目指した高畑の、テレビの名作シリーズを中心に紹介する。『アルプスの少女ハイジ』では、かの有名なオープニング映像のラフ原画を展示。現地をロケハンし描かれたという、美しい背景美術にも目を奪われる。また宮崎駿が手がけた『パンダコパンダ』のレイアウトは、本展開催直前に発見された非常に貴重なものだ。

第3章「日本文化への眼差し:過去と現在との対話」では、『火垂るの墓』や『平成狸合戦ぽんぽこ』などが登場。大阪を舞台にした『じゃりン子チエ』以降、日本の風土や庶民の生活を、リアリティーをもって描くことに情熱を注いでいった高畑。膨大なイメージボードや背景などから、その強い想いを感じることが出来る。

最後の第4章「スケッチの躍動:新たなアニメーションへの挑戦」では、水彩画風という新たなアニメーション表現を摸索した、高畑の飽くなき探求心に驚かされる。特に完成まで8年を要した『かぐや姫の物語』では、線画による1枚1枚の原画が、残像効果までも計算して描かれているというから、さらに驚きだ。

また高畑はかつて、ジャック・プレヴェールの詩を翻訳、それに奈良美智が絵をつけた詩画集『鳥への挨拶』を発表。本展にはその詩画集が出力された色校正用の紙の上から、奈良が新たにドローイングを加えたオリジナル作品、≪鳥への挨拶≫24点も出品されている。

取材・文:野上瑠美子