メモリカードの販売が好調だ。Androidスマートフォンのデータ保存に欠かせないmicroSDHCのほか、デジタルカメラなどの記録メディアであるSDHCも、手頃な価格になったことで伸びている。無線LAN機能をもつカードも徐々に普及しつつあり、家電量販店の客単価を上げる製品としても注目を集めている。

●3か月連続で伸張 低価格化も後押し

昨年10月に発生したタイの大洪水で供給がストップし、昨年末はHDD搭載機器を中心にIT関連製品の生産が大幅に減少した。メモリカードも店頭で品薄状態が続いた。家電量販店の実売データを集計した「BCNランキング」によれば、メモリカードの販売数量は昨年11月が前年同月比98.7%、12月が94.2%と厳しい状況だった。それでも、今年に入ってからは供給が回復し、店頭の品揃えが潤沢になって販売が増加している。販売数量の前年同月比は、1月が102.3%、2月が109.0%。3月が142.0%と、好調が続いている。

好調の要因の一つは、スマートフォンの需要増だ。携帯電話全体の販売台数のうち、スマートフォンが占める割合は60%を超えており、3月12日の週には80.3%に達するなど、携帯電話からスマートフォンへの移行が急速に進んでいる。同じスマートフォンでも、iPhoneは端末自体にデータを保存するフラッシュメモリを搭載しているが、Android OSを搭載した端末は内蔵メモリ容量がそれほど大きくない。データを保存するには、microSDやmicroSDHCなどのメモリカードが必要で、Android端末と同時に購入するケースが多い。実際、メモリカード全体の販売に占めるmicroSDとmicroSDHCの構成比は、昨年10月の25.4%から今年3月には33.9%にまで伸びている。

価格が手頃になっていることも、伸びている理由の一つ。全体の平均単価は昨年10月の1700円台から今年3月には1400円台に下落し、デジタルカメラ用として手頃なSDHCの4GBモデルは、500円未満で購入できる製品も増えている。デジカメユーザーのなかには、撮影シーンに合わせてメモリカードを使い分ける人もいて、価格が安くなったことで、買い替えだけでなく買い増しも促進されたものとみられる。

●アプリ保存で進む大容量化 無線LAN機能も

メモリカードは、ユーザーがスマートフォンやデジカメなどのデジタル機器を買ったついでに購入する「黒子」のような存在だ。「データ保存」という非常に大切な役割を担っているにもかかわらず、商品として話題になることも少ない。メーカーは今、商品価値を高めていくために、いくつかのキーワードを掲げて拡販に乗り出している。

まずは「大容量化」だ。とくにスマートフォンのユーザーに対して、2GB(ギガバイト)や4GBのカードよりも、8/16/32GBなどの大容量カードを勧めている。スマートフォンは、アプリをダウンロードすることで機能を追加して、“自分仕様”にできるのが最大の魅力。「アプリを保存するカードの容量が小さいと不便ですよ」「大容量カードなら、充実したカメラ機能で写真を撮ってもたくさん保存できますよ」というアピールだ。大容量化という点では、記憶容量を最大で2TB(テラバイト)まで拡張できる「SDXC」も、製品が充実してきている。

「高速化」もキーワードの一つ。最低書き込み速度が1秒間で10MB(メガバイト)を保証する「クラス10」対応をはじめ、100MB/秒に対応した製品も出てきている。撮影した画像や映像のデータがどんどん大きくなるなかで、データをストレスなくパソコンなどに保存できるというのは、ユーザーにとって大きなメリットだ。

さらに、デジカメユーザーに対しては、撮影した画像をワイヤレスでPCやオンラインストレージに保存することができる「無線LAN機能」を備えた製品もある。デジカメで撮影した画像をスマートフォンでオンラインストレージやSNSにアップロードするという使い方は、これから一般化する可能性が高い。

メモリカードは「黒子」ではあるが、家電量販店にとってはデジタル製品が売れるのと同時に確実に売れて、客単価を上げることができる重要な商品だ。メーカーも家電量販店も、今、商品価値のアピールに力を入れはじめている。

*「BCNランキング」は、全国の主要家電量販店・ネットショップからパソコンやデジタル家電などの実売データを毎日収集・集計している実売データベースで、日本の店頭市場の約4割をカバーしています。

※本記事は、ITビジネス情報紙「週刊BCN」2012年4月16日付 vol.1428より転載したものです。 >> 週刊BCNとは