ティモ・ヴオレンソラ監督

 月の裏側からナチスが攻めてきた! 奇想天外かつ壮大なストーリーで世界中の話題をさらったSF映画『アイアン・スカイ』(12)から7年。待望の続編『アイアン・スカイ/第三帝国の逆襲』が7月12日からTOHOシネマズ日比谷ほかで全国公開となる。前作から一転、ナチスとの戦いに勝利した人類は全面核戦争で絶滅寸前。月面でわずかに生き残った人々が、人類の未来を懸けて地球の謎に挑む。果たして、そこに待ち受けるものとは…? 前作に引き続きメガホンを取ったティモ・ヴオレンソラ監督に、作品に込めた思いを聞いた。

-前作とは全く違った物語に驚きました。どんなところからこの物語を思いついたのでしょうか。

 前作と同じことはしたくありませんでした。仮に、前作が『スター・ウォーズ』のようなSF作品だとすれば、今回は『インディ・ジョーンズ』や『ロマンシング・ストーン/秘宝の谷』(84)といった、僕の大好きな80年代のアドベンチャー映画風に仕上がっています。最近はそういう作品が少ないので、やってみたかったんです。『ジュラシック・パーク』(93)的な要素もあります。

-前作のラストを引き継いだ「全面核戦争により、人類が絶滅寸前」という設定はかなり痛烈ですね。

 前作のラストを引き継いだのはもちろんですが、月面で生き延びた人々が、地球から逃げてきた人たちに「受け入れる余地はない」と告げるあたりは、現在の難民危機の問題を反映しています。実際にヨーロッパでも、難民の住む場所がないという問題が起きていますから。また、個人的に“終末”というモチーフが好きなのも、こういう設定にした理由の一つです。生き残ったわずかな人々が、危険に立ち向かい、必死に生き延びようとする物語が好きなんです。

-前作同様、ご自身の好きな映画をモチーフやオマージュとしてふんだんに盛り込みつつ、風刺が効いているのが本作の特徴ですが、そこにはどんな思いがありましたか。

 映画作家には声があります。もちろん、僕もその一人です。だとすれば「今、世界がどんな状況にあり、どんな未来に向かおうとしているのか」を伝えるため、その声を使わなければいけない。もっと言えば、地球で生活できなくならないように、警鐘を鳴らすような物語を伝えていくべきではないか。そんなことを考えながら、映画を作っています。

-単なるエンターテインメントではないということですか。

 メッセージ性の薄いアクション映画を作ることもできますが、僕はそれだけでは物足りない。そういう映画は他にもたくさんありますから。せっかく、ハリウッドのスタジオとは一線を画した欧州のインディーズ映画の世界で、自由に映画を作ることができるのだから、社会に警鐘を鳴らすような作品や、建設的な批判精神を持った作品を作っていきたい。大きなスタジオと組むことになれば、どうしても制約を受け、今のように自由に語ることはできなくなります。だから今は、インディーズの映画作家として、自由に楽しくやっているところです。

-その点では、アメリカを中心とした国際政治に対する風刺を軸にした前作に対して、今回は「ジョブズ教」が登場し、IT社会や宗教に対する風刺が込められています。その理由は?

 今回は「宗教」を中心に据えました。宗教の歴史や、今まで宗教がどんなふうに使われてきたのか…。世界を説明するために使われたり、人類の誕生を神話化したり…。それも宗教という枠の中で起きることです。さらに、宗教がどんな未来へ向かうのか、あるいは未来の宗教とはどんなものになるのか…。そういう話題に、ものすごく興味を引かれたので。

-もう少し詳しく聞かせてください。

 今まで宗教は、われわれの住む世界を説明するために、身の回りにあるツールを使ってきました。でも、今の宗教は制度化されすぎて、時代に合わなくなってきている。それを踏まえて未来の宗教を考えてみると、デジタル革命を経て、今までとは全く違ったものになっていくのではないか。ではそのとき、一体誰が救世主になるのか。それはやはり、デジタル的に世界を変えたビル・ゲイツやスティーヴ・ジョブズのような人物だろうと。時間がたって彼らが神話的存在となり、宗教化していくことは十分に考えられる。そんなふうに、“未来の宗教”というテーマを楽しく掘り下げていった結果、出来上がったのが「ジョブズ教」です。

-冒頭に表示される「IRON SKY UNIVERSE(アイアン・スカイ・ユニバース)」という言葉の意味を教えてください。

 これが何なのか、今の時点ではっきり言うことはできません。ただ、僕たちが作っている映画の種類やその製作方法を考えると、より大きなユニバースの一部になるのではないかと感じるんです。だから、この物語や映画製作のスタイルを、もっと広げていきたい。それは、映画とは限りません。テレビやコミック、小説という形も考えられます。“ユニバース”という表現には、そんな思いが込められています。MCU(=マーベル・シネマティック・ユニバース)と比べたら小さなものですが、僕らのユニバースだって、十分ユニークですから。

-志ではマーベルにも負けないと?

 そのつもりです(笑)。MCUを生んだマーベルだって、昔はコミック専門の小さな出版社だった。それが何十年もたって、今のような状況になっているわけですから。僕らだって、将来どうなるか分かりませんよ(笑)。

(取材・文・写真/井上健一)

「ウレぴあ総研」更新情報が受け取れます