A NEW MUSICAL『JAM TOWN』 撮影=宮川舞子 提供=KAAT神奈川芸術劇場 A NEW MUSICAL『JAM TOWN』 撮影=宮川舞子 提供=KAAT神奈川芸術劇場

KAAT神奈川芸術劇場プロデュースのオリジナルミュージカル『A NEW MUSICAL JAM TOWN』が幕を開けた。少年隊の錦織一清が原案と演出を手がけ、2014年のトライアウト公演(試演)から練り上げてきた意欲作だ。ようやく迎えた本公演でそれは、まさにこれまでにない日本生まれのミュージカルとして、花開いた。

A NEW MUSICAL『JAM TOWN』チケット情報

物語の舞台は、横浜港につながる運河に係留された船を改築したボート・バー。その店のマスターと離婚して会えなくなっていた娘との関係を軸に、店に集まる人々の人間模様が描かれる。が、そんなストーリーを前もって説明するのが無意味に思えるほど、躍動感あふれる演者のパフォーマンスに、どんどん引き込まれていく。まずユニークだったのが幕開けだ。劇場では常となっている開演前の注意のアナウンスを、出演者がパントマイムで表現。そのまま手を叩き、足を踏み鳴らしてダンスへと移り、観るほうの気持ちを高めていく。気づいたら客席はもう、冒頭から熱い手拍子である。本編にも、そのごく自然な流れは活かされた。芝居と歌とダンスが、それぞれに印象的でありながら、違和感なく溶け合っていくのである。たとえば、娘が恋に落ちるシーン。雨の日のコンビニで再会して意識するふたりの気持ちを、ダンサーたちも加わって、傘を使ったキュートな歌と踊りで見せる。まるで一編のショーを観たような楽しさで、ふたりへの共感が生まれてくる。

マスターを演じるのは筧利夫。過去に傷持つ男の哀しさも漂わせながら、筧ならではの“演劇熱”を全身から放出させて、ときにアドリブを発しながら、歌い踊る。さらにはローラースケートまでこなすのだから驚きだ。娘のあゆみ役の松浦雅の歌、その恋人となるJJ役の水田航生のダンスも客席を圧倒した。また、マスターの元妻を演じた東風万智子は妻としての苦悩を見せて物語のスパイスに。マスターの幼馴染で探偵の長谷川に扮した藤井隆が、軽妙な芝居で舞台の空気を牽引した。特筆すべきは、振付のYOSHIEを筆頭としたダンサーたち。常連客やコンビニ店員などに扮して芝居をしながら、世界で活躍するYOSHIEの独特なダンスを見せつける。音楽の西寺郷太が演奏しながらたまに芝居に加わるという洒落た演出も含め、長らく『PLAYZONE』などのミュージカルに出演し、近年は演出家として数々の舞台を手がけている錦織のアイデアがそこかしこに光る。ライブでしか味わえない興奮がたくさん詰まった舞台であった。

公演は1月30日(土)までKAAT 神奈川芸術劇場 ホールにて。

取材・文:大内弓子