■ 現在南極点において行われている国際共同ニュートリノ観測実験「IceCube(アイスキューブ)」のアップグレード計画が始動します。2022年12月より第1段階としての建設が開始され、完成は2023年の1月を予定しています。 ■ このIceCubeアップグレードプロジェクトで使用される検出器は、世界各国の研究者により製造からファームウェアの開発までが行われています。南極点の氷河下に埋め込まれた既存の5,160個の検出器に、700個を超える新しい強化光検出器が追加されます。このうち300個は、千葉大学チームによって開発された「D-Egg」検出器が採用されます。他の400個は、ドイツ及びアメリカの複数のチームが共同開発した「mDOM」検出器が使われます。



拡張計画の目的


新検出器の配置図:青色で表示された既存の検出器の間に 密接に新型の検出器(赤)が設置される。
今回のIceCubeアップグレードの主な目的は、1立方キロメートル中に設置される検出器を強化してニュートリノの振動特性の研究における精度を向上させることです。

今回のアップグレードでは、アイスキューブの現行の検出器DOMの設置場所に比べ、新しい検出器をより密接に配置します。これにより今まで正確な検出が難しかった低いエネルギーのニュートリノからの弱い信号を検出することができるようになり、検出可能なニュートリノのエネルギーの範囲が広がります。

また、検出器同士の距離が短くなることで、氷の性質を正確に見極めることが可能になります。

光が氷中を通り抜ける際の屈折率を正確に把握することにより、ニュートリノの到来方向推定の精度向上が可能になります。これによりニュートリノによる宇宙探索の精度が格段に高くなります。

千葉大学チームにより開発された新型検出器 D-Egg



卵型の新型光検出器「D-Egg」:様々な日本の技術が集結。例えば、400気圧以上の氷中の気圧に耐えられるガラスは、千葉県柏市の岡本硝子製を採用。また、光検出器の要ともいえる光電子増倍管は、静岡県浜松市に所在する浜松ホトニクスにより製造されている。
千葉大学の研究室で開発された新型の光検出器は、卵のような形をしたデュアル光学センサーです。通称D-Eggと呼ばれています。

D-Eggは現行の検出器DOMよりも30%小さくなっていますが、特別に設計され紫外線透過性の高い耐圧ガラスで作られた卵型容器には、2つの光電子増倍管が上向きと下向きにそれぞれ収納されており、光子検出有効面積がこれまでの2倍となったことで、ニュートリノ相互作用から発生するチェレンコフ光の測定精度を向上させることが期待されます。

また、D-Eggのために新たに設計されたLED発光装置は、氷河の中の光学特性のより正確な解析を可能とし、宇宙から飛来するニュートリノの到着方向の分解能向上に大きく貢献することが見込まれています。

現行の検出器DOMとの違い

ニュートリノが氷と相互作用して生成された2次粒子が氷中を通過する際に発生する微弱なチェレンコフ光を検出し、その信号を増幅する光電子増倍管。光がPMTの光電面に当たると、光電子が発生します。検出器モジュールにつけられた高電圧分圧回路によって加えられる高電圧により、光電子が増倍され、電気信号が生成されます。

直径25cmの大きな電球のような形のこの装置を、D-Eggでは上下に1つずつ内蔵しています。上と下両方に設置することにより、下向きに1つだけ内蔵されていた現行の検出器DOMに比べ、様々な方向から飛んでくるニュートリノが発する光に対応が可能です。
左は現検出器モジュールのDOM。下向きに光電子増倍管が1つ設置されている。 新型は上と下に組み合わさって内蔵しており、様々な方向からやって来るニュートリノの検出により適したデザインとなっている。



【参考:IceCube(アイスキューブ)実験について】

■ アイスキューブ実験の概要
「IceCube(アイスキューブ)」実験のニュートリノ観測施設は、南極点Amundsen-Scott基地に建設されました。南極点の広大な氷河を用いてニュートリノという素粒子を検出するというこのユニークな国際共同実験は、2011年から稼働しています。この実験の目的は、宇宙から地球に向かって飛んでくる高エネルギーニュートリノを検出し、そのニュートリノを生成している超高エネルギー宇宙線の謎を解明することです。また、透過力の高いニュートリノで宇宙を「視る」ことにより、ベールに包まれていた新しい宇宙の姿を探ることも大きな目標です。

アイスキューブ実験には、12ヵ国50機関より約300名の研究者らが参加しています。千葉大学チームは、日本から参加している唯一の研究機関であり、実験開始当初より参加しています。

■ 現在のアイスキューブ実験

現在のアイスキューブ観測施設の全体図
南極点の広大な氷河下に2.5kmの深さの穴を86本あけ、その中に球型の光検出器が縦に連なるように設置されています。計5,160個の光検出器が、氷中をニュートリノが通り抜けた際に発生する「チェレンコフ光」と呼ばれる光を検出します。

ニュートリノは不思議な特性を持つ素粒子で、ほとんどの物質に反応することはなく、様々な物質を通り抜けてしまいます。しかし、水分子は稀に反応し光を出すことがあり、アイスキューブ実験では、この光を検出することにより、目に見えないニュートリノを捕らえています。

これまでの取り組みと成果
ニュートリノの性質を活用し、マルチメッセンジャーという手法を使った観測システムが2016年より運用されています。これは、アイスキューブの検出器がニュートリノを検出すると、即時にそのデータを解析し、その到来方向を含む情報とともに世界中の天文観測施設へアラートを配信し、各観測施設の天文望遠鏡が追尾観測を行い、その方向の宇宙でなにか特殊な動きをしている天体がないかを調査する仕組みです。

2017年9月に、 アイスキューブの観測によりニュートリノ事象「IC170922A」が検出され、到来方向などの観測情報が、直ちにアラートにより世界中の観測施設に配信され、世界中の観測施設が追尾観測を行いました。結果、かなた望遠鏡の観測によりニュートリノが来た方向に通常とは違う動きをしているブレーザー天体があることが分かりました。Fermi-γ線衛星や解像型大気チェレンコフ望遠鏡MAGICなど様々な望遠鏡のデータを解析してみると、この天体がγ線とニュートリノを放射していることが分かりました。初めてニュートリノの起源天体が特定されたのです。
2017年にIceCubeが検出し、放射源天体同定のきっかけとなったニュートリノ事象「IC170922A」
発見されたニュートリノ放射源天体は、巨大なブラックホールを持ち非常に強いガンマ線を放つTXS506+056というブレーザー天体だった。
この発見により、マルチメッセンジャーを用いた観測システムの有効性とともにニュートリノが大きな役割を果たすことが証明されました。さらなる放射源天体同定に向け、道標となるニュートリノをより多くより正確に検出することは不可欠であり、アイスキューブ実験のアップグレード計画は、そのためにも必然となります。

IceCubeアメリカ本部ニュースリリース(英語):
https://icecube.wisc.edu/news/view/661

IceCubeインターナショナル・チームの貢献について(英語):
https://icecube.wisc.edu/news/view/662

この研究は、日本学術振興会による特別推進研究・基盤研究(A)・新学術領域研究などの科学研究費補助金の支援及び千葉大学グローバルプロミネント研究基幹の支援をいただいて行っています。

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