『ももへの手紙』を手がけた沖浦啓之監督

『人狼 JIN-ROH』の沖浦啓之監督の最新作『ももへの手紙』が21日(土)から公開される。日本を代表する名アニメーターたちが総結集した本作の魅力とこだわりはどこにあるのか? 沖浦監督に話を聞いた。

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本作は、瀬戸内海の小さな島で暮らすことになった少女ももに訪れる不思議な日々を描いた家族と愛の物語だ。沖浦監督は「これまでハードなテイストの作品をやることが多かったのですが、ずっと児童文学や絵本が好きで、子どもと大人の世界の関わりを描いた作品をちゃんとつくっておきたかった」と振り返る。その“ちゃんと”にかける情熱と労力は並大抵のものではなく、製作期間に7年を要し、大作アニメのチーフ級のアニメーターたちがズラリと顔をそろえた。「腕のあるアニメーターは、どの現場もほしいですし、作品に関わると1年から2年は拘束されてしまう。でも、この映画の場合は製作期間が長かったので待つことができた。だから『このシーンは上手い人にお願いしたい』という場面は、その人のスケジュールが空くまでとにかく待ちました」。

そのこだわりは、映画をほんの数分観ただけで伝わるだろう。本作に登場するキャラクターは、ほんの小さな表情の変化や仕草まで丁寧に描き込まれ、画面の中にしっかりと“存在している”と感じられる。「モデリングされたものを動かす3DCGと、毎カットごとに絵を作り出していくアニメは別のものなんですね。人間って少し角度が違うだけで、別の人に見えることがありますよね? そういったことがこだわりの部分だし、手で描くことの面白さなんです。作画監督の安藤(雅司)さんは、“表情”を描ける人。実は“画が上手い”のと“表情が描ける”のは別のことで、『ももへの手紙』のようなリアルな作品になると、大きな変化ではなく、ちょっとした目の動きや顔の角度が重要になってくる。安藤さんはそういう時の“捉え間違い”がない。本当に希有な才能だと思います」。

本作の根幹にあるのは母と子、そして亡き父の物語だ。それを実写映画ではなく、手描きのアニメーションで表現することに意味はあるのか? その答えは本作を観ればわかるだろう。腕のあるアニメーターたちが1枚1枚、手で描いた画が連続して撮影された際に出現する“揺れ”や“表情”は、CGアニメや実写では決して再現できないものだ。「前作を作る前にも『10年先も観られる映画をつくります』と言いましたけど、この映画もずっと価値を持ち続けてくれれば」という沖浦監督。CGアニメが規模を拡大し、手描きアニメを担う人材が減りつつあるが、本作はその完成度の高さから、10年と言わず長きに渡って語り継がれていくであろう作品に仕上がっている。

『ももへの手紙』
4月21日(土) 全国ロードショー