大きな不在を待つ。マームとジプシーの”夜”3作上演

2016.2.19 11:30配信
藤田貴大 藤田貴大

2月18日、彩の国さいたま芸術劇場でマームとジプシーの公演がスタートした。マームとジプシー主宰である藤田貴大が蜷川幸雄を題材とした戯曲『蜷の綿-Nina’s cotton-』を書き下ろし、蜷川演出版を大ホールで、藤田演出版を小ホールで同時上演するというプロジェクトは、発表されるや演劇界の大きな話題をさらった。

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しかし、年明けに蜷川の体調不良による延期が発表された。その事態に直面し、藤田らが選んだのは『夜、さよなら』『夜が明けないまま、朝』『Kと真夜中のほとりで』という3作を再構成して上演すること。「この空いた期間に何をするかということは、やっぱり少し悩みました。ただ、この期間に蜷川さんのことを上演するというそれ自体は、『蜷の綿』が延期されたからといってなくなってしまうものではない。いかに蜷川さんのことを考えながら待ち続けられるかと考えたとき、いまのこの状況を過去作品で表現するとしたら”夜”のタイトルがついたこの3作だろうと思ったんです」

『Kと真夜中のほとりで』は2011年に上演され、マームとジプシーのマスターピースとの呼び声も高い“いなくなってしまった人を待つ”物語。「そのトーンが、蜷川さんを待っているこの特別な時間とすごく似ているなと思った」と語る藤田。しかし単純にこの作品を再演するのではなく、2009年上演の初期作品『夜が明けないまま、朝』、さらには彼がマームとジプシー結成前、20歳の時に書いた『夜、さよなら』(2006年初演)を組み合わせるという発想はどこから来たのか。

「僕はふだん、役者さんと企画をどうするかという話はほとんどしない。でも今回は延期が決まってから、すごく話し合ったんですよ。ここ数年、僕らは大きな作品が増えて、『cocoon』をやって、野田秀樹さんの『小指の思い出』をやって、寺山修司の『書を捨てよ町へ出よう』をやって……と、自分たちを振り返る時間なんてなかった。でも今回、急に立ち止まることになったわけです。そこでみんなで話し合って、『Kと真夜中のほとりで』1本を再演するよりは、僕らの10年間を夜というテーマに吹き込もうという話になった。『夜、さよなら』を書いたのは20歳の2月、本当にちょうど10年前なんです」

ここ数年、演劇界のレジェンドや他ジャンルの才能とコラボレーションを重ねてきたマームとジプシー。その中でも最大のプロジェクトが延期になったことで、はからずも、ある面で彼らのこれまでを総括するかのような、集大成とも言える作品が生まれることになりそうだ。

「もちろん、『蜷の綿』を待っていてくれた人がたくさんいるから、手放しで“よかった”とは言えない。でも結果的に僕らはいま、とてもいい時間を過ごせている。もしかしたらこの状況さえも、蜷川さんの演出のひとつなんじゃないかな、とさえ思います」

公演は2月28日(日)まで彩の国さいたま芸術劇場 小ホールにて。

取材・文/釣木文恵

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