舞台稽古より 写真:新国立劇場 舞台稽古より 写真:新国立劇場

新国立劇場で初めてのヤナーチェク作品上演となるオペラ《イェヌーファ》が、2月28日(日)に幕を開ける。18日、ピアノ伴奏による舞台での通し稽古中の同劇場を訪れた。

新国立劇場オペラ『イェヌーファ』チケット情報

《イェヌーファ》は、チェコの作曲家レオシュ・ヤナーチェク(1854~1928)の代表作。まぎれもなく傑作だ。まず何といっても音楽が、美しく、かつ雄弁。1904年初演の20世紀の音楽だけれど、けっして晦渋ではない。調的な音の重なりを失うことのない濃厚な響きには、しかし自由なふるまいが与えられていて、私たち現代人にとっては、「ちょうどいい緊張感」の音楽だ。しかも、美声を誇示するためだけのアリアのような、19世紀オペラ的な「見得」がないぶん、演劇としてのリアリズムが担保されているのだ。

今回の舞台は、2012年にベルリン・ドイツオペラで上演されたプロダクション(クリストフ・ロイ演出)。2014年にも同じ顔ぶれで再演され、ライヴ映像も発売されている評判の演目だ。今回はその主要キャストがほぼそのまま来日したので、稽古と本番を重ねて細部まで練り込んだチームによる、理想の舞台になるはず。それでもこの日の全体稽古の開始直前、ひとりでステージに現れたイェヌーファ役のミヒャエラ・カウネが、指揮者とピアニストにリクエストして、ある箇所の入りのタイミングと音程を念入りに確認しながら繰り返していた。準備を怠らないのは一流の証だろう。

そのカウネの演じるイェヌーファは聡明な村一番の美人。資産家の跡取り息子シュテヴァの子を身ごもりながら、図らずもその義弟ラツァをも虜にする。カウネのセクシーな歌声を聴けば、男たちが魅かれるのも無理がない気がしてくる。そのラツァ役はヴィル・ハルトマン。このオペラの成功の鍵を握る重要な役だ。説得力ある深めのテノールは、劣等感ゆえに逆上して暴力さえ振るい、それでもイェヌーファに無条件の愛を捧げる男の、内面の移ろいや多面性を見事に表現している。そしてイェヌーファの継母コステルニチカにジェニファー・ラーモア。原作戯曲のタイトルが『彼女の養女』であることでわかるように、物語の実際の主役だ。後妻ながらイェヌーファを実の子のように愛し、その幸せを望むあまり彼女が産んだ赤ん坊を殺してしまう。厳格な道徳家が堕ちていく狂気に、ラーモアが屈指の表現力で迫っている。質の高い上演となるのは間違いない。

公演は2月28日(日)から3月11日(金)まで東京・新国立劇場 オペラパレスにて。

取材・文:宮本明