【CP+2016】次のカメラについて、上級エンジニアがディスカッション

2016.3.3 17:38配信
日本カメラ財団の市川泰憲氏

2月25~28日にかけて横浜市のパシフィコ横浜で開催された写真と映像の見本市、「CP+2016」。初日の25日に「次のカメラは」と題した上級エンジニアによるパネルディスカッションが開かれた。コーディネーターに日本カメラ財団の市川泰憲氏、日本大学芸術学部写真学科の甲田謙一 教授を迎え、主要カメラメーカー4社のエンジニアと、これからのカメラについて語り合った。「CP+2016」の各ブースに登場した主な出展製品の写真も交えながら、ディスカッションの概要を紹介する。

コーディネーター:

日本カメラ財団の市川泰憲氏

日本大学 芸術学部写真学科の甲田謙一 教授

パネラー:

オリンパス 映像開発本部の杉田幸彦 本部長

キヤノン ICP第二開発センターの塩見泰彦 所長

ソニー IP&SセクターDI事業本部 商品設計部門 中島健 副部門長

ニコン 映像事業部 開発統括部 山本哲也 開発統括部長

●ますます高画素数化が進むデジタルカメラ

日本カメラ財団の市川泰憲氏(以下、市川) まず、ニコンの山本さん。このところカメラの高画素数化が進んでいますが、ニコンのD800、D800Eから4年、後継機のD810から2年。高画素数化を進めるにあたってどんなご苦労があったんでしょうか。

ニコン 山本哲也 開発統括部長(以下、ニコン 山本) 高画素数化には、賛成派と反対派の両方がありますが、目的は高画質です。高画質の要素として、レンズや素子でつくる空間周波数の分解能、濃度の分解能、諧調、時間の分解能の三つがあります。これらが高画質を作り出します。その中で多画素化を高画質に使おうと進めたわけです。D800でユーザーの使い方がわかってきたので、D810では諧調を豊かにしコマ速を上げました。全く違うカメラに仕上がったと思います。

市川 キヤノンの塩見さん、昨年は5000万画素を超える5Dsを発売されましたが、やはり高画素数化にあたってご苦労がおありだったでしょう。

キヤノン 塩見泰彦 所長(以下、キヤノン 塩見) 想定以上に市場で受け入れられています。画素数だけ増やしても意味がありません。撮像素子だけでなく、レンズの性能も向上させなければなりませんし、レンズのラインアップも広げる必要があります。フルサイズの高画素数機は、ワイド系のレンズは設計的には難しい。解像度や収差、光学補整なども合わせて新化させていかないと高画質は得られません。

市川 ソニーの中島さん、α7R IIは撮像素子にフルサイズの裏面照射型を搭載したということで注目されましたが。

ソニー 中島健 副部門長(以下、ソニー 中島) 予想以上の反響に驚いています。やはり高解像度への期待が高いんだと思います。撮像素子だけでなく、今回発表したGマスターレンズのように、レンズの解像度も高く、合わせてよい評価が得られてると思います。4200万画素という画素数は、感度とのバランスも重要です。特に、フルサイズという大判で初の裏面照射素子を使うことで、入射光に対するフレキシビリティを高く保つことができました。

市川 甲田先生は、高画素数化という動きをどのように評価なさいますか。

日本大学 甲田謙一 教授(以下、甲田) 実際に高画素機を使ってみて、やはり画素数はあったほうがいいと感じます。いろいろな使い方ができるからです。トリミングなど、画素数が多ければいろんなことができる。画質だけでなく、応用範囲が広がった気がします。

市川 ところでオリンパスの杉田さん、このほどOLYMPUS PEN-Fをリリースされましたね。

オリンパス 杉田幸彦 本部長(以下、オリンパス 杉田) フィルムのPenは1959年にシリーズ化したカメラで、合計17機種1700万台作ったシリーズです。世界初のハーフサイズ一眼レフとしての、ペンシリーズ最高峰、Pen Fは1963年の発売です。2009年に、デジタルのペンをシリーズ化しました。今回のPEN-Fは、とデジタルの最高峰としてリリースしました。ただ、デザインを真似るだけでなく、デジタル時代の気持ちよく使え、使いやすいカメラを目指しています。

市川 うたい文句に、フィルム選びからデジタルで楽しむという言葉がありますが、どんな意味なんですか。

オリンパス 杉田 PEN-Fの正面にあるクリエイティブダイヤルで、モノクロやカラーのプロファイルが選べる機能をつけました。例えばモノクロに合わせると、白黒のフィルムを使ってレンズにカラーフィルター付けたような感覚で撮影できます。フィルムを選ぶような感覚で楽しんでもらうようにしたわけです。

市川 画素数が2000万画素にアップしましたが、今後は2000万画素になっていくんでしょうか。それから、ハイレゾショットは、使うのが難しいですね。

オリンパス 杉田 最終的なゴールではありませんが、2000万画素はバランスの取れたポイントだと思います。高画素数にするには、撮像素子に画素を詰め込む方法と、複数回シャッターを切って万画素を稼ぐ方法があります。当社ではハイレゾショットと言って、画素を半ピッチずらして8回シャッターを切り、5000万画素を実現します。特に物撮りなどでは、諧調がゆたかになり高画素数の恩恵が得られます。

市川 キヤノンさんは、昨年のキヤノンエキスポでAPS-Hで2億5000万画素というカメラを展示していましたね。

キヤノン 塩見 2000万画素もあれば、A3ぐらいの出力なら十分です。ただし、トリミングが前提ならそれでは足りない。遠くの被写体では、トリミングが一つの武器になりますからね。超高画素数カメラの用途として、監視カメラやアーカイブなど産業用途があります。細かい情報が高速に一度に取得できますから。もちろんレンズもかなり特殊なものが求められます。光学性能と合わせ、AFや手振れ補正も磨かなければ高画素数は生かせませんね。高画素数になれば、感度が落ちたりするという課題もあるので、両立させながら開発を進めたいと思っています。

●オリンピックイヤーでフラッグシップモデル続々

市川 今年はオリンピックイヤーということもあり、ニコンからはD5、キヤノンからはEOS-1D X MarkIIが登場しました。D5はISO 328万という高感度になりましたが、特殊な技術を使ったのですか。

ニコン 山本 撮像素子の画像処理といかにレンズを通した光を撮像素子に集めるかというところを工夫しました。

市川 ペンタックスのフルサイズ一眼、K1もISO 20万という高感度で登場しました。キヤノンは、コマ速で毎秒14コマという高速連写です。ミラーを動かしての14コマというのはかなり速いと思うのですが、これまでと変わった要素はあるんですか。

キヤノン 塩見 前モデルは毎秒12コマ。バネのチャージを使ったミラー駆動でしたが、今回はモーターでミラーをダイレクト駆動してスピードをコントロールすることで14コマを実現しました。例えば、ミラーダウンした際のショックがAFに影響しないよう、さまざまな改良を加えました。

市川 高速連写機はスポーツ撮影に向いています。ニコンもしのぎを削っているわけですが、D500もスポーツを意識しているカメラですよね。高速連写で、どんな写真が撮れるんでしょう。

ニコン 山本 コマ速が毎秒10コマを超えるとだいぶ違います。動いているモノをいかにとらえ続けられるか。コマ速は被写体や絞りの条件で変動しますが、そこをいかにバランスよくまとめるかが大事です。例えば、モータースポーツやスケートなどファインダーをのぞきながら撮り、生産性や歩留まりが高い状態で、バランスでコマ速を上げることも重要です。

市川 甲田先生、最近の学生さんにとってのフラグシップモデルというのはどんな位置づけなんでしょうか。

甲田 フラッグシップを狙う層と、小型で軽快なものを使う層と別れています。特に高速連写がモノを言う鉄道写真のようなジャンルではフラッグシップが好まれますね。ただ、大部分の学生にとっては、フラッグシップは大きくて重い、という印象が強いようです。

●ミドルレンジの新製品も登場で賑わう市場

市川 ミドルレンジモデルはどうでしょう。キヤノンは80Dを出しました、ファインダー視野率が100%で、オールクロスの45点AFセンサーなど新しいと思いますが。

キヤノン 塩見 エントリーユーザーからのステップアップと、本物志向が強い方をターゲットにした、カバー範囲が広いモデルです。光学ファインダーの視野率はこのクラスでは初の100%を達成するなど、ファインダーに力を入れています。デュアルピクセル CMOS AFセンサーなど、AF、AEの技術も進化させた。割安な価格で上のクラスのスペックを実現しました。

市川 D500はD300の発展形と言われていますが、従来のD7000あたりとは違う開発姿勢なんですか。内蔵ストロボをなくしたのは何か理由があるんでしょうか。

ニコン 山本 確かにD300系列で、D5と同様の考え方で開発しました。写真を撮る生産性や歩留まりが上がるカメラです。ストロボをなくしたのは、一つには高感度だからという理由があります。もう一つはこのクラスのカメラになると、外付けのライティングシステムを使う方が多いだろうという理由もあります。D7000系は普通の人が使うイメージですが、D500は堅牢性が高くプロ向きになっています。

市川 80Dでは、パワーズームアダプタやキットレンズに搭載されたナノUSMなど、動画志向が強まっているようですね。

キヤノン 塩見 80Dでは動画機能を充実させ、動画HDRや動画クリエイティブフィルタなど進化させました。動画に向けたレンズ、パワーズームアダプタなどは、カメラだけでは実現しにくいものに対応できるような機能を目指しました。ナノUSMは新規開発の超音波モーターです。駆動方向が光軸方向と同じなのが特徴で、静穏性にすぐれたズームやAFが動画撮影に適しています。

市川 ソニーのα6300はAF性能がさらに優れたものになったようですが。

ソニー 中島 α6300は、α6000のAF性能をさらに研ぎ澄ましました。新たに撮像素子を開発し、被写体に細かく追従できるよう、425ポイントの測距点を実現しています。ただ、測距点が多いため、一度に大量のデータを処理する必要が出てきますが、社内に撮像素子の開発部隊を抱えているので、こうした課題がクリアできるわけです。

●進化を続けるコンパクトカメラ

市川 コンパクトデジカメのRX1 R IIは発売が延期されましたが、はやり、世界初の光学式可変ローパスフィルターの影響ですか。

ソニー 中島 そうではありません。製品としての完成度を上げるために時間をいただきました。ただ、光学式可変ローパスフィルターは、モアレと偽色と解像感をボタン切り替えできる画期的な機能です。私自身、光学デバイスでもそんなことができるんだ、とびっくりしました。コンパクトデジカメで究極の画質が達成できたと思います。

市川 プレミアムコンパクトといえば、ニコンもDLシリーズを出してきましたね。

ニコン 山本 撮像素子が1型のDLシリーズをリリースしました。撮像素子が1型のカメラはミラーレスのNikon1シリーズがありますが、今回はレンズ一体型です。一眼レフカメラのD系の高画質が撮れるという意味のDと、レンズのLでDLです。親しみやすいように、35mm換算の焦点距離をそのまま製品名としました。

甲田 写真は写ればいいと思っている人が多い。とはいえ、撮像素子が小さいと、解像度が全然足りない。やはり、素子はある程度の寸法は必要です。1型というのは妥当なところなのかもしれません。

市川 それでは最後に、皆さんにとってのこれからのカメラについて一言いただけますか。

オリンパス 杉田 写真は、カメラの技術だけでなく、写真家やユーザー、そして撮れる場所、環境、出来事などが蓄積されて進化してきました。ですから、メーカーとして、カメラのラインアップは、単純なものではなく、多様化した専門性のあるものに進化していかなければならないと思います。

キヤノン 塩見 どんな時代でも、カメラは撮影者にとって大切な道具です。意思、環境、感覚をカメラに注入できて一体感が生まれます。動画の分野も進歩していきますが、単に動画や静止画という切り口ではなく、両者の融合したものが必要なのかもしれません。そして見る人に感動を与える映像を提供しなければなりません。これからも多種多様なカメラが出てくると思いますが、撮る楽しみや撮る瞬間の興奮を提供するだけでなく、撮る前の準備も含め重要な要素だと思います。カメラを通じてトータルに楽しむという視点で、人間の感覚を刺激する仕組みを考えながら、次のカメラに結び付けていきたいと思います。

ソニー 中島 カメラは、他の製品とは決定的に異なります。テレビはスイッチを入れればそれで動きますが、カメラはスイッチを入れただけでは何も起きません。被写体に向けてシャッターを切って、初めて意味が生まれます。ですから、カメラメーカーの使命は、撮影時に制約があれば、それを外していくことだと思います。暗すぎて手持ちで撮れなければ、感度を上げ、撮れるようにして制約を外すといったことです。また、クリエイティビティを刺激したい。たとえば、何百万もするカメラでしか実現できなかったスーパースロー撮影ができるようになりました。プロしか撮れない映像が自分でも撮れるようになると、僕も撮ってみよう、となりますよね。こうしたユーザーとの共同作業を大事にしていきたいと思います。

ニコン 山本 カメラはキャプチャーディバイスです。撮れないものを撮れるようにするのが私たちの役目。撮影領域を広げるということですね。また、SnapBridgeのように、ネットワークに簡単につないでシェアできる環境も重要になってきます。撮った先まで考えるようになると、カメラのシステムは変わってくるでしょう。フィルムカメラとは全く別の全然違うものに進化していくでしょうね。

甲田 デジタルカメラの時代であっても、愛でられるカメラ、触って楽しく、写して楽しめるカメラが欲しいですね。買ったら10年楽しめるカメラだったり、人に見せたくなるようなカメラだったり。そんなカメラをつくって欲しいと思います。

市川 本日は長時間ありがとうございました。

いま人気の動画

     

人気記事ランキング