母乳110番】の現場からお伝えしている育児相談シリーズ「よくある質問」特集。第2回は「授乳の最重要ポイントって?母乳かミルクかではないの?」【母乳110番】代表で『おっぱいとだっこ』など多くの著書もある竹中恭子さんが優しく分かりやすく回答します。

ある赤ちゃんが教えてくれた授乳で一番大事なこと

――前回のインタビューでは、ズバリ「母乳とミルク、どちらがいい?」についてお伺いしました。「どっちでもいいのよ」という答えに衝撃を受けましたが(笑)、授乳について第三者から質問される時に、最初に聞かれるのが「母乳?ミルク?」だったりします。

竹中さんはほかに、もっと重要なポイントがあると前回お話しされていましたが?

竹中恭子さん(以下、竹中):あります。乳汁の種類より大切なポイントが。

そもそも赤ちゃんにとって「おっぱい」というのは「乳汁」だけのことを指すのではないんじゃないかな。

――「おっぱい」が「乳汁」だけのことを指すのではない?

竹中:ちょっと自分が赤ちゃんになったつもりになって想像してみてください。

赤ちゃんはママに抱き上げてもらうことで、身体がふわっと浮き上がりますよね。そしてママの腕や胸の体温を感じると思うのです。やわらかな肌ざわりも香りも今まで背中に感じていた布団とは違うものですし、優しい声も聞こえたりするでしょう?

・・・赤ちゃんにとっては、全身で感じられるそのすべてが「おっぱい」なのではないでしょうか。

でも、私たちはついそのことを忘れて、乳汁の“種類”や“量”ばかり気にしてしまいますよね?

具体例を出してお話ししましょうか。【母乳110番】はスタートして25年余りになりますが、何度か「これは大変だ!」という場面に出合ったことがあります。なかでも非常に印象に残っているご相談に、

「うちの子、笑わないんです。どうしたらほかの赤ちゃんのように笑うようになりますか」

というものがありました。詳しく話を聞いてみると・・・

身体の栄養だけ与えられていても赤ちゃんは育たない!

竹中:お子さんが少し大きくなって、児童館へ行ったり、公園にお散歩にも出かけるようになって「周りの赤ちゃんは声を立てて笑うのに、うちの子は笑わないからおかしいと思って電話してみた」とおっしゃるんですね。

それで「あやしてますか」って尋ねたら「“あやす”って何ですか?」と言うお返事が返ってきまして。正直にいえば、ちょっと耳を疑いました。

よくよく聞いてみるとそのママは、家の中でずっとヘッドフォンをしたまま赤ちゃんの相手をしていたそうです。泣けば授乳もするし、おむつも替えてあげる。だから栄養も十分足りていると思うし、身体的な発育に問題もなさそうだと。

私が絶句していたので彼女は少しびっくりして、「何か問題なんですか?」「だって子どもはまだ口もきかないし、ヒマだからそうしていたんですが」と。

そのママは、赤ちゃんのお世話を、掃除機をかけたりするのと同じ「作業」ととらえていたのですね。だから笑いかけることもしないし、声をかけることもしない。ただ黙々とおむつを替えたりおっぱいをあげたりしていたそうです。

赤ちゃんは模倣して学びますから、表情がない大人と一緒にいても表情を真似することができません。だから笑わない赤ちゃんになってしまった・・・。

私にとってはショッキングな体験でしたが「生き物を相手にしたことがない」って、たぶん、そういうことなんだと思います。

――そのママと赤ちゃんはその後、どうなりましたか。

竹中:【母乳110番】はボランティアの相談機関ですから、必要時には必ず専門家におつなぎします。この時も、地域の専門家さんに訪問してもらえるようにしました。その後はあやし方をお教えしたりして、声を立てて笑うところまで回復したそうです。

繰り返しになりますが、ママに抱き上げてもらえる身体の感覚、やわらかな肌ざわり、心地よい安心感、優しい声・・・そのすべてが「おっぱい」――つまり「早期接触」であり「スキンシップ」であって、そしてその「おっぱい」が、赤ちゃんの、あのかわいらしい笑い声をつくってくれていたんですね。

だから「母乳ならいい」、あるいは「栄養を与えていればいい」ワケでは決してない。本質は、そこではないんです。

――たしかに!ただそう考えると、ママは赤ちゃんに掛かりきりになりませんか。「母親だから当然!」といわれればそれまでとはいえ、よりプレッシャーも感じますが。