VRヘッドセット三強の一角「HTC Vive」が実現する“ルームスケールのVR体験”とは?

年明けからいよいよ本格的に始動しているVR市場。最先端テクノロジーの要となるVRヘッドセットの発売日や価格が続々と発表され、ユーザーの期待は最高潮に高まっている。

VRヘッドセットの三強といえば、Oculus社の「Oculus Rift」、SCE(ソニー・コンピュータエンタテインメント)の「PlayStation VR(PSVR)」、そしてHTCとValve社が共同開発した「HTC Vive」だ。国内のゲームイベントなどで試遊の機会が多かった前者2機種に対して、「HTC Vive」は日本でのお披露目の機会がこれまでほとんどなかった。しかし、ここにきて国内展開の動きが活発化しており、メディアへの露出も増えてきている。今回、製品版に近い新型プロトタイプの「HTC Vive Pre」を体験する機会を得たので、レビューした。

●「HTC Vive」の最大の売りは高精度のトラッキング機能

「HTC Vive」はWindows PC対応のVRヘッドセット。世界最大級のPCゲームプラットフォーム「Steam(スチーム)」の公式サイトで、3月1日に購入予約を開始した。「HTC Vive」の日本向け価格は11万1999円。1月に先に価格を発表している「Oculus Rift」の日本向け価格が8万3800円なので、少々割高だ。

しかし、割高分の付加価値が「HTC Vive」にはある。それが、ヘッドセットと付属品のコントローラー、ベースステーションが連携することで実現する高精度のトラッキング機能だ。「Lighthouse」と呼ばれるポジション・トラッキングシステムで、最大3.5m×3.5mのルームスケールでのVR体験を可能にする。言葉だけでは少々イメージがつかみづらい“ルームスケールのVR”だが、今回の体験会ではその画期的な技術の一端を身をもって体感することができた。

「HTC Vive」は事前準備として、32個のセンサーを搭載するヘッドセットと、各24個のセンサーを搭載する二つのコントローラーを、部屋の角2か所に設置したベースステーションと呼ばれる装置に同期する必要がある。このセットアップによって、プレーヤーの現実での動きをVR空間に反映することが可能になる。

ヘッドセットを装着すると、目の前に現れたのは等間隔で地面に円が浮かび上がっている白い空間だ。手元を見ると、両手に持つコントローラーがVR空間の中にも出現している。手を動かせば、VR空間中のコントローラーも現実の動きを追随する。実際の手元の動きが視認できないこともあるが、タイムラグはほとんど感じなかった。

そのまま、恐る恐る足を前に進めるとVR空間の世界も歩を進める。ある程度、前進すると目の前に格子状のグリッドが出現する。360°周囲を見回すと、グリッドが空間をキューブのように区切っていた。これがVR体験が可能なルームスケール(体験時は上限の3.5m×3.5m)のエリアというわけだ。

●“見た目”だけじゃない、体の動きや道具の使用感も想像以上のリアリティ

「HTC Vive」の特性を理解したところで、実際のコンテンツをいくつか体験した。そのなかから“ルームスケールVR”の魅力を存分に堪能できたコンテンツを紹介しよう。

まずは「Job Simulator」という、その名の通りオフィスの一角を再現したシミュレーターだ。VRヘッドセットを通した世界はまさに現実世界のオフィスで、自分のワークスペースのエリアをルームスケールに設定し、360°に配置されたオブジェクトを自由自在にコントロールすることができる。

例えば、机の上のマグカップ。カップに近づいてコントロールのトリガーを引くと、カップを手に持った状態になる。試しにトリガーを離すと、現実の物理法則に従い、カップは落下した。驚いたのは、落下の仕方や地面にぶつかる瞬間のカップの跳ね具合だ。現実の出来事と見まがう再現率で、カップを割ってしまったのではないかと内心ヒヤヒヤしてしまった。落としたカップは、地面にかがんでトリガーを引くことで再び手に持つことができた。

マグカップは実際に道具として使用することが可能だ。備えつけのコーヒーメーカーにカップをセットし、ボタンをタッチするとコーヒーがカップに注がれる。コーヒーの入ったカップは口元に近づけることで、飲むこともできる。実際に体内にコーヒーが入ってくるわけではないが、「ゴクゴク」という効果音が聞こえるため、なんとなく飲んでいる実感が沸いてくる。ちなみに記者は最初のトライでは、うまく口に注ぎ込めずに地面にコーヒーをこぼしてしまった。こぼれ方もリアルで、思わず服にコーヒーがかかっていないか確認してしまったほどだ。

「Job Simulator」の空間には、作業用のPCや書類、おやつのドーナツまで多彩なオブジェクトが用意してある。時間の都合で、すべてのオブジェクトの機能を試すことはできなかったが、それぞれに実に細かいギミックが設定されていることが確認できた。

次にプレイしたのは「Cloudlands Minigolf」というゴルフゲーム。コントローラーをパターに見立てて、実際のパターゴルフの要領でホールアウトを目指す。

コントローラーを振るとセンサが反応するタイプのゲームはこれまでもあったが、「Cloudlands Minigolf」は再現度のレベルが別次元。ボールがある場所に移動し、回りこんでスタンスを取り、ボールとの距離を調整する……といった、通常のテレビゲームであれば省略されていたような作業が可能で、限りなくリアリティのあるゴルフプレイを体験できた。

●ビジネス向けの施策で認知拡大、一般ユーザーに体験機会を提供

「HTC Vive」は一般のコンシューマー向けだけでなく、ビジネス向けの施策にも積極的に取り組んでいる。例えば、大日本印刷とフランス国立図書館がコラボレーションして開催している体験型展示会『フランス国立図書館 体感する地球儀・天球儀展』。ここでは「HTC Vive」を使用して、地球儀の中心にバーチャルで入り、ぐるりと360°の星座を観測するコーナーを設けている。

3月10日には、グリーと業務提携し、国内のアミューズメント・レジャー施設にVR体験を提供すると発表。グリーは2015年からGREE VR Studioでコンテンツ制作に取り組んでおり、今回の提携では両社が開発協力し、商業施設のニーズに合わせたソリューションを提案・支援していく。

“VR元年”といわれている今年は、まだまだVR関連の発表やイベントが目白押し。10万円を超える本体価格やプレイ環境構築にハードルの高さ感じるユーザーが手軽にVR体験できる機会も増えていくことだろう。一度体験しないことにはその凄さが実感できない新しいテクノロジーを、どのように普及させていくのか、ハードメーカー、ソフトメーカー双方の動きに注目したい(BCN・大蔵 大輔)