もう一軒は錦糸町駅南口の、居酒屋が密集する歓楽街にあった。

英語と日本語で「アジアカレーハウス」と描かれた看板の下には、段ボールに入った食材が置かれていた。入口のドアにはシェフの顔写真と、日本語と英語のメニューが貼ってあった。そのメニューに、緑に赤い丸の国旗が描かれている。

国旗はバングラデシュのもので、この店はバングラデシュ料理の店だ。

これまでカレーは北インドも南インドも経験済みだが、バングラデシュは未体験。むろんインドにもバングラデシュにも行ったことがない。バングラデシュのカレーとインドでは何がどう違うのか、同じなのか、まったく見当もつかない。

ドアの向こうには不思議な空間が広がっていた。カウンター5席の細長い店内。開店直後だったが、目の前では半袖の男性がサラダ用の野菜をカットしている真っ最中。

その背後には食材らしきものが高々と積まれ、別の壁面にはクリスマスのプレゼントを待つ子どもが靴下をかけるように、いろいろな食材がつるされていた。

バングラデシュの国会中継なのだろうか、カウンター上のタブレットPCには演説をする男性が映しだされていた。

奥の厨房を覗くと、Tシャツ姿の男性が骨付きの鶏もも肉を大鍋で煮込んでいた。
カオスな空間は、スパイスの香りと未体験の言語であふれかえっていた。