萱野 まず現在の日本における結婚の状況を確認したいのですが、いま結婚って、一昔前のように誰もが経験するものではなくなってきていますよね。

佐藤 そういわれますね。

萱野 なぜそうなったかというと、よく指摘される原因は、いわゆる経済格差の広がりです。特に男性が低収入の場合、結婚したくてもできない人が多い、と。ただそれは結婚を取り巻く状況の変化であって、結婚そのものの変化ではありません。

では結婚そのものからきている原因は何かというと、「恋愛結婚を成立させる難しさ」だと思うんです。

佐藤 恋愛結婚を成立させる難しさ、というと?

萱野 我々現代の日本人は、恋愛結婚を理想として掲げていますよね? では恋愛結婚の本質って何かというと、物々交換だと思うんです。つまり相手のほしいものと自分のほしいものが一致しない限りは成立しない。そして人間は、それを自力で判断し実行できるほど実は強くない。というのが、結婚を困難にしているいちばんの理由だと、私は見ています。

佐藤 面白いですね。恋愛結婚している人たちは、強いということですか。

萱野 ある種、僥倖に恵まれた人たちですね。物々交換の才能があった、あるいは才能がなくても出会い運のよさがあった。そもそも自由恋愛、自由な結婚の歴史は浅いじゃないですか。かつては親や親せきや、とにかく誰かがお膳立てしてくれていた範囲の中で相手を探していたんです。

佐藤 お見合いはそのためのシステムですね。

萱野 さらにいうとお見合い全盛の時代には、そこまで恋愛結婚がすばらしいものとは意識されていなかった。それが変わってくるのが1960年代で、多くの人はお見合い結婚だったにもかかわらず、「お見合いで出会ったけれども、お互いにひかれ合って、恋愛して結婚したんですよ」という物語が優勢になってきたんです。

佐藤 「お見合い恋愛」とか言いますよね。

萱野 ええ。そもそも結婚は個人の判断でするものではなかった。家族や地域といった共同体の意思によって行われてきたものでした。ところが戦後、結婚イコール恋愛のゴール、というふうに概念が変わったんです。現代の自由な結婚観が浸透したのは、最近のことなんですよ。