社会の恩恵を感じ難い構造となっている現代。
この閉塞状況を打破するためのヒントを探るべく、作家の佐藤優が若き知識人たちと語り合う。

著書『右肩下がりの君たちへ』(ぴあ書籍)より、評論家の荻上チキ氏との対談「いじめについて考えること」から抜粋して紹介。

サボられてきた議論にアプローチする

佐藤 荻上さんはメディア論、ジェンダー論など幅広いテーマを扱っておられますが、今回は「いじめ」について話を伺います。さっそくですが、ご自身はいじめる側に回ったことはありますか?

荻上 あります。いじめる側、いじめられる側、どちらも経験しました。いじめられる側のほうがほとんどでしたが。

佐藤 そのことをいま、ご自身ではどのように分析されているのでしょう。

荻上 経験は、間違いなく活動の動機付けになっていますね。いじめというのは、「状況の力」「環境の力」によって導かれることも多く、単に個人の心の問題、道徳の問題にしてはならないものです。

そこで僕らは今「ストップいじめ!ナビ」というNPO法人を運営しつつ、いじめの当事者や保護者向けに、いじめに関する具体的な対処法・情報を広めています。

佐藤 安全な場所での机上の空論ではなく、ご自身の経験も踏まえて活動しておられるところが、素晴らしいと思います。

荻上 これまでのリソースがあるからこそできることも多いんです。「いじめ」が社会問題として日本で議論されるようになって30年以上になります。その間に多くの調査や研究がされてきて、統計データもかなり集まっていますから。ただメディアがそれらを紹介できていなかったんですよね。