小松勝役の仲野太賀

 ロサンゼルスオリンピックでの日本選手団の活躍に刺激を受け、故郷・熊本で再び走り出した金栗四三(中村勘九郎)。その前に現れたのが、四三に憧れる青年・小松勝だ。共に九州一周の旅に出た2人は以後、師弟関係を結び、激動の昭和を歩んでいくこととなる。物語後半のキーマンとなる小松を演じるのは、「八重の桜」(13)などの大河ドラマに出演し、現在も数々の作品で活躍する若手俳優の仲野太賀。熱望していた本作出演の裏話、小松役に懸ける意気込みなどを聞いた。

-出演が決まったときのお気持ちは?

 メチャクチャうれしかったです。実は、制作発表があったときから出演したくて、個人的に「いだてん」の関係者という関係者に、手当たり次第に会いに行っていたんです。直接的に「出たい!」とは言わず、「どんな物語か」、「どんな役があるのか」、「撮影はいつか」と聞いて回って、「楽しみにしています!」と(笑)。でも、ことごとく「詳しいことは言えない」、「すごいことになる」と含みのある話をされるばかりで…。そのうち、「どうやら思いが届きそうだ」という気配が漂ってきたので、事務所の方と「スケジュールを空けておきましょう。絶対に来るので」と話し合っていたら、本当に話が来て…。だから、本当にうれしかったです。

-そこまで出演を熱望した理由は?

 僕はもともと、宮藤官九郎(脚本家)さんの作品が大好きで、そのチームで大河ドラマをやる。しかも題材はオリンピック。絶対に面白いに決まっている。「これは大変なことになる。絶対に出なきゃ」という気持ちでした。

-小松勝役の印象は?

 「いだてん」には、金栗四三と田畑政治(阿部サダヲ)という2人の主人公がいて、さらに落語のパートもあります。小松勝は、それらをつなぐキーになる、とても重要な役。ここまでスタッフ、キャストが必死に紡いできた物語をひとつにつなぐわけですから、「下手なことはできない」と思いました。

-小松勝と金栗四三の師弟関係を、どんなふうに見ていますか。

 小松にとって金栗先生は尊敬すべき憧れの存在です。ただ、そんな人の指導を受けたからといって、浮かれているわけでもありません。もちろん、最初はそういう気持ちもありますが、鍛えられていく中で、同じランナーとして、「金栗先生に負けたくない」という気持ちが芽生えてくる。一緒に走るシーンでも、先生が先を行っていたら、必死に走って追い越す、そうすると、また先生が追い越して…という感じで。そういう「追いつ、追われつ」みたいなせめぎ合いを楽しむのが、小松と金栗先生の師弟の形なのかなと。その中で、かつての金栗先生を思わせる部分が出せたら…と思っています。

-小松の走り方はどのように生まれたのでしょうか。

 走り方はとても大事なので、マラソン指導担当の金哲彦さんがフォームを考えてくれました。金栗さんのフォームを基に、歩幅やピッチ、上体の使い方を研究し、時代に合わせて進化しつつ、2人の師弟感が出るような感じになっています。

-金栗さんと一緒に走る場面も多いようですね。

 金栗先生と一緒に走る場面は何度も登場しますが、周囲の街の風景や情勢はその都度変わっていきます。例えば、オリンピックが近づくとにぎやかになったり、戦争が近づくにつれ、兵隊の数が増えたり…。でも、街の風景が変わっても、金栗先生と小松の中にあるものは変わらない。ただひたすらオリンピックを目指す、金メダルを取る。そこは揺るぎません。戦争の気配も感じてはいますが、それまで積み上げてきたものがあるから、「絶対オリンピックに行く!」と信じる気持ちの方が強い。僕としては、そこをうまく表現したいと思っています。

-金栗四三役の中村勘九郎さんと共演した感想は?

 勘九郎さんがスタッフと家族のように接する姿を見ていたら、「これが大河ドラマに主演する人なんだ」と実感しました。勘九郎さんが現場に入るだけで、空気がふわっと明るくなるんです。その存在感がとてもすてきで…。自分が一番大変なはずなのに、僕のような役者に対してもフラットに接してくださって、とても優しい方ですし。カッコいいな…と。

-熊本弁はいかがでしょうか。

 なかなか大変ですが、熊本ことば指導の先生が真摯(しんし)に教えてくださるので、指導を受けながら、一生懸命やっているところです。勘九郎さんも熊本弁は完璧なので、いろいろとリードしていただいています。例えば、僕がアドリブに苦戦していると、勘九郎さんが率先してやってくださったり、僕が勘九郎さんの言っていることを参考にしてみたり…。時には「こういうときは、こう言ってみたら?」と、勘九郎さんがアドバイスをくれることもあります。

-ところで、小松は金栗さんと一緒に美川(秀信/勝地涼)くんに会う場面もあるようですね。

 そうなんです。実は、この作品が決まる前、僕が勝地さんと一緒に名古屋でドラマを撮影していたとき、ちょうど勘九郎さんが平成中村座の公演をしていたことがありました。そこで、勘九郎さんと親交のあった勝地さんに誘われてその公演を見に行ったら、終わった後、一緒に食事する機会があったんです。そのとき、勝地さんと「勘九郎さんと絶対に共演したいね」と誓い合っていたら今回、3人でご一緒する場面があって…。台本を見てびっくりしました。「いだてん」は登場人物が多いので、知り合いでもなかなか現場が一緒にならないのに、3人で共演できるなんて、すごい縁だな…と。とても楽しかったです。

-これからの意気込みのほどを。

 「いだてん」は、周りを見渡してみると、どこを取っても素晴らしいキャストしかいません。勘九郎さんや綾瀬はるか(池部スヤ役)さん、柄本佑(増野役)さん、三宅弘城(黒坂辛作役)さん…。皆さん本当にすごい。そういう素晴らしいキャストが作り上げたシーンは、間違いなくいいものになっているはずです。だから、僕も皆さんに遅れることのないよう、きちんとついていきたいと思っています。

(取材・文/井上健一)

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