新国立劇場オペラ「ウェルテル」 撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場 新国立劇場オペラ「ウェルテル」 撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場

4月3日、新国立劇場(東京・初台)にてオペラ『ウェルテル』が開幕した。原作は、文豪ゲーテの代表作『若きウェルテルの悩み』。誰もが知る古典的悲劇を、フランスの作曲家マスネが「人間ドラマ」として鮮やかに描き出す。

新国立劇場オペラ「ウェルテル」チケット情報

ある夏の日、ウェルテル(ディミトリー・コルチャック)とシャーロット(エレーナ・マクシモワ)は出会う。しかし彼女には許婚アルベール(アドリアン・エレート)がいた。ウェルテルと惹かれあいながらも、決められた結婚をしたシャルロット。その年のクリスマス、ふたりは一度だけ愛を告白しあうが、「永遠にさようなら」と告げられたウェルテルは死を選び、シャーロットは慟哭のなかで彼を看取る――筋はごくシンプルだ。しかし、マスネの音楽にこめられた感情の、なんて鮮やかなこと!

たとえば、第2幕でシャーロットに拒絶されたウェルテル。神様に自死の許しを請うが、祈るような囁きから叫びまでの振れ幅で、絶望を見事に表現する。シャーロットの揺れる心もアルベールの冷酷さも、言葉よりメロディが雄弁に伝えてくれる。一方で、作品の故郷フランスからやってきた指揮者エマニュエル・プラッソンと演出家ニコラ・ジョエルが紡ぎ出す今回の舞台には、抑制のエレガンスが漂う。東京フィルの艶やかな音や、コローの絵画のような色彩、若々しい歌手たちの見た目もあいまって、終始うっとりさせられた。

そんななか、苦悩するごとに増していくウェルテルの輝きは、第3幕で頂点に達する。「愛だけが真実なんだ。それ以外は無意味だ!」――3幕分、抑えに抑えてきた感情が爆発。ふたりが口づけしたときの快感と言ったらなかった。この日一番の歓声が上がったし、ウェルテルの歌声と、まっすぐな感情の美しさに涙がボロボロあふれた。

ウェルテルは破滅型で、ヒーローとはかけ離れた人物に見える。しかし、彼の死の後味は決して悪くない。ある意味、マスネのもうひとつの代表作『マノン』のヒロインにも似ている。悩める青年と小悪魔女子は正反対にも見えるが、自分をごまかさないという一点においてとてもよく似ていて、私にはどちらもすがすがしい。カーテンコールで喝采に応えるコルチャックには気のいいナイスガイの雰囲気があふれていて、そんな歌手本来の朗らかさも功を奏したのかもしれない。

また、マノンに振り回される騎士デ・グリューがいい男であるように、シャーロットもいい女だと思う。ズボン役もこなすメッゾソプラノだけあって、どこか凛々しく毅然とした態度がカッコいいマクシモアなら、悲しみを乗り越えて強く生きていくだろう。そんな気がした。

公演は4月16日(土)まで。

取材・文:高野麻衣