ここで恒例のMCタイム。豪雨に見舞われゴルフができなかった話、本場で飲むオリオンビールの美味さについての話などなど、(おそらく本人的には)とっておきの地元ネタを投下するも、観客とのキャッチボールはいまひとつ。大橋「沖縄の人は東京に来たときもオリオンビール飲むの?」 観客「(ザワつきつつも反応ナシ)」 常田「なんか、いろいろ訊いてもはじき返されるね(苦笑)」 大橋「(話題が途切れ)……えー……じゃあ何話しましょうかね? せっかくの沖縄なんですけど」――こんな調子で延々と続くMC。冒頭で「今日はファイナルなので、ゆっくりたっぷりやりますから!」と言ってたのは、このMCのことなのか!? とツッコミたくなるほどのゆるさ。MC終盤で大橋は「ダメだ。ゆっくりでいいと思うとこんな感じになっちゃうから、もっとハキハキしゃべろう! もっと声はれよ!」と今さらな叱咤を常田に飛ばしていた(笑)。このゆるさすらスキマらしさとして許容されているどころか、むしろ待ち望まれているあたり、スキマスイッチのファンもタダモノではない。

さて、もっとタダモノでないのは、そんなゆるさの極地と言えるMCから一転、集中力の高いパフォーマンスを繰り広げるふたり+バンドの面々である。思春期の葛藤と逡巡をエモーショナルなギターの旋律に乗せた『石コロDays』、新作の中でも珠玉のポップネスを放つ『LとR』『Andersen』と、新作『musium』からのナンバーが続く。今回はじめてけっこう前の方でライブを見たのだが、間近で見て気付いたことは、歌にしろ演奏にしろ、本当に細やかなコントロールの上に成り立っているということだ。そんなのプロなんだから当たり前と言えば当たり前なのだが、特に『musium』の楽曲を演奏するときに、それが顕著に現れている気がした。

簡単に言うと『musium』の曲は、演奏するのも歌うのも、とっても難しいんじゃないだろうか。その分、自分たちの持つポテンシャルが次々に引き出され、ちょっと見たことのない絶好調ぶりを発揮しているのではないかと。まあ皆さん百戦錬磨のミュージシャンばかりで、今さらポテンシャルとか言うのもはばかられるのですが、『musium』というアルバムがプレイヤーとしてのチーム・スキマスイッチの可能性を、これまでにない高みへと引き上げていっている気がした。

最新作のポップ・サイドを届けた後ではじまったのは、3rdアルバム『夕風ブレンド』の中でも人気の高い『ズラチナルーカ』。終末観漂うシリアスな音像が、ふたたび会場の空気を変えていく。そして常田真太郎の長く静謐なイントロに導かれ、『さいごのひ』が歌われる。この曲、自分はこれまでイベントなどで何度か聴く機会があった。ロック系バンドが出演する大型フェスに出演したときも、決して盛り上がりはしないこの曲を、彼らは必ずセットリストに入れてきた。それだけスキマスイッチにとって大事な曲で、どのステージでも伝わってくる気迫はすさまじいものがあったし、それは「切迫感」と言っていいほどのものだった。

だが、この日聴いた『さいごのひ』は、これまで聴いたどのものとも違っていた。圧倒的に優しい。大橋の歌声も、常田をはじめバンドの演奏も、圧倒的に優しかった。これは客観的に書けている自信がなく、単純に自分にはそう聴こえた、というレベルの話かもしれない。でも自分には、単発のイベントを経て、ツアーを廻ってきて、ここでこんなに優しい『さいごのひ』が聴けたことが、とても嬉しかった。